「経験値」と「屈辱感」

秋季神奈川大会を制した東海大相模高は同校初となる春、夏、秋の「3季連続優勝」と高い実力を見せつけた
気の早いのは承知だが、東海大相模高は2020年春の「センバツ優勝候補」と言っていい。
とにかく、強い。
10月6日、桐光学園高との決勝を6対2と快勝。「全国屈指の激戦区」と呼ばれる神奈川で春、夏、秋と3季連続優勝と、同校初の偉業を遂げた。桐光学園高との決勝は2点リードを4回に一度は追いつかれるが、7回に主将の三番・
山村崇嘉(2年)の勝ち越し2点適時打に、続く四番・
西川僚祐(2年)が貴重な追加点となる2点適時打と“役者”がきっちりと勝負どころで仕事を果たした。
2年生ながらU-18W杯(韓国)でプレーした
鵜沼魁斗(2年)も、初回に先制のホームを踏むと、3回には右越え適時打三塁打と持ち味の積極プレーでチームをけん引した。
投げては準決勝(対相洋高)から連投の左腕・諸隈惟大(2年)が4回2失点でしのぎ、5回からは1年生右腕・金城龍輝が5イニングを無失点救援。県大会6試合でわずか7失点。準決勝でリリーフした左腕・
石田隼都(1年)に加え、主将・山村も投手兼任でスタンバイする盤石の投手陣である。
なぜ、強いのか? 2つ要因がある。
まずは「経験値」。今夏の甲子園でベンチ入りした18人中8人が灼熱の全国舞台を味わっている。しかし、東海大相模高・門馬敬治監督はこの「経験値」をアテにしない。
「(2年生以下に)生きているかどうかは、分からない。ただ、感じたことのほうが大事。われわれは、答えがないから取り組んでいく。分かっていることをやっていくしかない。それが『できることを確実にやっていく』ということにつながると思う」
東海大相模高には「経験値」に加え、全国舞台でしか味わえない「屈辱感」を味わった。今夏の甲子園。近江高(滋賀)との初戦(2回戦)では持ち味の「アグレッシブベースボール」で快勝も、中京学院大中京高(岐阜)との3回戦では、3対1とリードした7回に一挙7失点と逆転負け(4対9)を喫した。
ここでも、門馬監督は教訓を語る。
「一番上の大きな勝ちをつかむためには、目の前の小さいことをやっていくしかない。27個のアウトを取ることは大変なことで、1球が27個のアウトにつながる。1球の積み重ねしかない」
県大会6試合、東海大相模高はスキを見せることなく勝ち上がった。桐光学園高に6対2で勝利しても、幕切れの風景は決勝を制したムードとは無縁。主将・山村は言う。
「優勝できたことはうれしいですが、ゴールはここではない。次は関東大会での優勝です。最終目標? (甲子園)春夏連覇です」
関東大会へ向けて
10月19日に群馬で関東大会が開幕する。関東・東京のセンバツ一般選考枠は「6」であり、関東大会4強が「有力」の立場を手にすることができる。
6試合で66得点。高校通算24本塁打の一番・鵜沼、同41本塁打の三番・山村、同50本塁打の四番・西川を擁する実力校は堂々の優勝候補である。気の早いことは百も承知だが、2020年のドラフト候補トリオからも目が離せない。
しかし、そんな周囲の声にも冷静に対応するのが、甲子園で春夏を通じて3度の優勝経験がある名将・門馬監督だ。
「(関東大会までは甲子園を)意識してしまう時間。(甲子園を)意識してしまう大会。大会ですので一戦必勝ですが、勝ちたいという欲ではなくて、できることを積み重ねていく」
東海大相模高は、対戦校としては最もやりにくい相手。だから、強さを継続できるのだ。
文=岡本朋祐 写真=BBM