
大谷の先発・DHとは違う中継ぎでの二刀流に挑戦中のロレンゼン。彼の成功がさらに二刀流選手の出現を増やしていくことになる
9月、レッズは実験的にマイケル・ロレンゼンをさまざまな形で起用した。センターで先発し最後までプレーしたのが5試合、センターで先発し、途中リリーフで投げ、最後又センターを守ったのが1試合。代打からレフトに回ったのが1試合、代打からセンターを守ったのが2試合、リリーフからセンターに回ったのが4試合、リリーフのみが5試合、代打のみは1試合、代走のみは2試合だった。
投げる日、打つ日が事前に決まっている
大谷翔平と異なり、ロレンゼンの二刀流は、どのタイミングで何をするかは試合の流れによる。準備の仕方を聞くと「ADJUSTING ON THE FLY(その場で調整する)」との解答。「ブルペンで待機していても、代打や代走で使うぞと言われ、急きょダグアウトに走って戻ったり。あるいは守備固めのときもある。試合の流れを見ながら、どんなシナリオでも対応できるように待つ」と説明する。
試合前の練習はどうか?
「まずはキャッチボールなど投手のルーティンを済ませる。その後、チームの打撃練習中に、センターの位置で目慣らし。ボールがバットに当たるのを見て打球を追い、時にダイビングも試みる。守備範囲を広げるためというより、自分のリミットを見定めるためだ。打撃練習は最後の組で打つ」。
試合の最初はまずブルペンに行くのか?
「基本そうだね。しかし連投で、しかも複数回投げて、今日は登板がないという日は、ダグアウトに残る。試合の序盤はケージで打って代打に備え、終盤代走や守備固めがありそうと判断したら、そのために身体を動かしておく」
センターで先発し、途中リリーフしたときは、6回裏の守備が終わると、センターからブルペンに移って肩を温めた。レッズのディック・ウィリアムス編成本部長は「興味深いのは二刀流をやってからピッチングが良くなったこと。守備も打撃もとすべてやることで、考え過ぎずシンプルなアプローチが好結果を生んでいる(最後は5試合連続無失点)。プラス、すべてをプレーすることで、試合に勝つために何をすればいいか知識が深まった。以前は身体能力に頼り過ぎる面があったが、野球術に長けた選手に変わりある」。
来季のエンゼルス監督に決まったジョー・マドン監督(前カブス監督)はかなり前から二刀流の価値を口にしてきた人物。9月17日、敵チームのロレンゼンがリリーフ登板後にセンターを守ったのを目の当たりにして「チームにとって良いこと」としながら、「同じ試合で、投手と外野手の両方で肩を使うことでリスクはないのか?」と危惧していた。
ウィリアムス編成本部長も「マイケルの役割は難しい。私たちが今、見極めたいのはどこまでプレーさせて良いのか。彼の才能を最大限に活かすと同時に、ケガを防ぐべく用心しないといけない」と語った。
ロレンゼンは「かつては「4分間のカベ」という言葉があった」と言う。1マイル(約1.6キロ)を4分で走るのは人間には不可能だと信じられていたが、一旦破られると、多くの走者がカベを越え、今では中距離走者の標準になった。「二刀流がプロ野球で広まっていくように大谷や私は成功し続けなければならない」と意気込んでいた。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images