昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 長嶋茂雄の豪快2発
今回は『1969年5月26日号』。定価は60円。
阪神・
江夏豊─
田淵幸一の黄金バッテリーが話題になっている。
5月10日、5万2000人の大観衆となった阪神─
巨人戦。肩の痛みを抱える江夏豊が巨人打線相手に6安打散発の完封勝利(4対0)。打っては新人捕手の田淵が
堀内恒夫から2ラン。このとき熱狂したファンがグラウンドに降り、田淵に土下座して頭を下げる一幕もあった。
試合後の勝利者インタビューも当然、この2人。「外角ストレートだった。このへんで打たねば、江夏に顔向けできないと思って」と田淵が言えば、「肩のほうが不安だったが、田淵さんの2ランが、そんな不安を吹き飛ばしてくれた」と語った。
ニュースター登場と同時に巨人・
長嶋茂雄が極度の不振に陥り、限界説がささやかれていた。
打率は2割そこそこ。5月8日の
中日戦では9回裏無死一、二塁でなんと送りバント。しかも、これが失敗し、ゲッツーとなった。
「サインだ。あの場面では次に当たっている末次がいるから当然だ」
と
川上哲治監督。
ただ、ようやくスランプから脱出しそうな雰囲気も。
きっかけは、豪快な“2発”だ。
1発目は、巨人ロッカールーム。長嶋がやってきて、椅子に座った途端、勢いのいいヤツをぶっぱなした。
「あまり一発が出ないからな。せめてこっちのほうで景気をつけてやろうと思ってね」と長嶋はニヤリ。
さらに翌日にも、
王貞治や
土井正三がいるところで2発目。王が、
「チョウさんは我慢強いんだな。入口で出してもいいのに、わざわざ俺たちがいるところまで持ちこたえてくるんだからさ」
というと、大爆笑になった。
「だけど、こればっかりは音のするほうがいいんだぜ。監督がときどきご披露するのは、音がないヤツなんだ。震源地が分からなくて顔をしかめていると、ワッハッハと笑っているけど、あれは強力だな」
この翌日、今度は本職のバットでの一発も生まれ、会心の笑顔を浮かべた長嶋だった。
もう一人、打率2割台で低迷していた打者がロッテの
榎本喜八だ。打率.219と低迷し、ついにはスタメンから外された。こちらは長嶋と違い、悩んだあげくノイローゼっぽいというウワサもあった。
それは4月29日、近鉄戦のことだ。初回、
土井正博のゴロを胸に当てた一塁手の榎本。そのときは、少し痛そうな顔をしただけだったが、3回の守備中、突然、ベンチに入り込み、そのまま交代となった。
あとで聞くと、
「打球を受けたところが心臓だった。それであとになって急に宇佐美(西鉄の選手で、練習中、胸に打球を受け、そのまま死去)のことを思い出したんだ。ああこれはいかん。俺もやられるんじゃないかと思ったら、何か目の前がスーッと暗くなって、とても守ってはいられなくなったんだ。それで代えてもらった」
ヤクルト・松園オーナーへのインタビューもあった。すでにチーム名は「サンケイアトムズ」から「アトムズ」になり、胸にはヤクルトの文字もあったが、このまま「ヤクルトアトムズにするのですか」という質問には、
「今は考えていない。胸マークは年間契約をしただけでチーム名とは関係ない」という。
では、また月曜に。
<次回に続く>
写真=BBM