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慶大を「理想のチーム」に仕立てた大久保秀昭監督。次は古巣・JX-ENEOS復活へ尽力

 

野球を通じた人間形成


慶大・大久保秀昭監督は2015年春から母校を率い、東京六大学で3度のリーグ優勝。3季ぶりに制した11月4日の優勝パレードは、神宮球場から三田キャンパスまで、応援してくれたファン、関係者へ「感謝」を伝える場でもあった


 あくまで一般論として、こんなことを語ったことがある。

「大学の野球部は続いていきますが、社会人野球は常に存続の危機と直面しているんです」

 2015年春から母校・慶大を率いた大久保秀昭監督(50歳)は、極端に言えば「24時間体制」で学生と真正面からと向き合ってきた。一方で、かつて監督として率いた古巣・JX-ENEOSの戦況をいつも気にしていた。

「いつ言おうか、そのタイミングを見計らっていたんです。負けてから言おうか、とか……。でも、そろそろ(メディアから)出るとの情報も耳に入ってきたので……。報道よりも学生にまず、伝えたかったんです。学生たちは、私のことを信頼してくれましたから」

 慶大は早大1回戦(11月2日)で開幕9連勝を遂げ、3季ぶり37度目のリーグ優勝を決めた。翌2回戦(3日)は91年ぶりとなる勝ち点5の「10戦全勝優勝」がかかっていたが、今季初黒星。三塁ロッカールームでの試合後ミーティングで、学生たちに退任を伝えた。翌4日、一部報道で「退任記事」が掲載。早大3回戦後、自らの口から今秋限りで慶大のユニフォームを脱ぐことを表明した。

 在任5年10シーズンでリーグ制覇3度。全幅の信頼を寄せる主将・郡司裕也(4年・仙台育英高)が正捕手となった16年秋以降、今秋まで7季連続で勝ち点4。「成績や勝率の判断は、皆さんにお任せします」と謙そんしたが、常に優勝争いを展開してきた。

 野球を通じた人間形成。よく聞かれるフレーズではあるが、大久保監督はまさにこの言葉を体現した。ベンチ入りは25人に限られるが、部員163人に同じ目的意識を持たせるため、一人ひとりに役割を求め、チームの「和」を大切にしてきた。かつては希望者全員が野球部に入部できたが、18年からは「スタンドバイ制度」を導入。一定の基準をクリアした学生でないと入部を認めないシステム体制を確立。決して難しいことを要求するのではく、野球部の歴史、ルール等を理解した上で加入してもらう「研修」のようなものだ。

 大学の授業があれば、学校優先のため、なかなか全員で汗を流すことはできない。つまり、指揮官は朝から晩までグラウンドに立ち、学生と接してきた。誰一人として、落伍者を出さない。勝つことが目的だが、その過程を大事にする。大学スポーツにおける、マネジメント能力に長けた“教育者”であった。

険しく、高い山


 社会人では「理想のチーム」に仕上げるのに7〜8年かかったが、慶大ではこの秋、就任5年で、その域に達したという。その差は?

「社会人野球は30人という少人数ですが、入社してきた段階で選手個々が野球観を持っている。一方、大学生はそこまで染みついたものがない。純粋さ、吸収しようという姿勢があるから、社会人よりも短期間で、自分たちで考えて、動く形ができるようになった」

 大久保監督は社会人でも手腕を発揮してきた。JX-ENEOSの監督時代は都市対抗優勝3度(2008、12、13年)、日本選手権優勝1度(12年)と、前身の日本石油から続く名門チームを、抜群のリーダーシップでけん引。しかし、大久保監督の退任後は低迷が続く。都市対抗出場を今夏、4年連続で逃し“待ったなし”の状況となったようだ。

 11月5日、JX-ENEOSから大久保監督の復帰が発表(正式就任は12月1日)された。なお、慶大の次期指揮官にはJR東日本で2011年の都市対抗制覇など、実績十分の堀井哲也監督(57歳)の就任が同5日に発表されている。堀井氏は、大久保監督が信頼を寄せる慶大の先輩の一人。明治神宮大会(11月15日開幕)後はスムーズな引き継ぎ、新チームへの移行が期待できそうだ。

 大久保監督は同5日、同社を通じて、こうコメントを出している。

「6シーズンぶりに監督としてチームを率いることになりました。前回とはチーム状況も所属している選手のタイプも大きく異なりますが、必ずや険しく高い山をチーム全員で登り切りたいと思います。応援して下さる皆様の期待に応えるべく、歴史と伝統ある強豪チームの復活を目指してまいりますので、温かいご声援をよろしくお願いします」

 険しく、高い山。それは当然、都市対抗制覇。名門再建へ、一肌を脱ぐ。強いチームが勝つのではなくて、勝ったチームが強い。負けない野球こそが、大久保監督のポリシーだ。その卓越した指導力に注目していきたい。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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