誰もが虚を突かれた

7回、源田のセーフティースクイズで生還した周東
■プレミア12「スー
パーラウンド」
日本3対2オーストラリア=11月11日(ZOZOマリン)
まさか、ここでバントとは。虚を突かれたのはスタンド、オーストラリアだけではなく、侍ジャパンベンチの
稲葉篤紀監督も同じだった。
1対2と1点を追う7回のことだ。先頭の
吉田正尚が中前打で出塁すると、日本ベンチはすかさず足のスペシャリスト・
周東佑京を代走で起用。その周東は「サインはグリーンライト(走れたら走ってOK)。絶対にアウトになってはいけない場面。走るつもりで集中していました」とじっくりと相手バッテリーを観察すると、カウント2ボール2ストライクから
浅村栄斗が三振に倒れる間に二盗を成功させる。
松田宣浩も三振に倒れて二死となったが、続く
源田壮亮の打席では「相手(バッテリー)の意識がバッターに向いていました。走った段階で100パーセント、セーフだなと。投げてきて、送球が逸れればホームにかえることも考えていました。それに、二塁よりも三塁に進んだほうが、源田さんも楽だと思った」と、1ボール1ストライクから今度は三塁を陥れた。
これを打席で見ていた源田は「(周東が三塁に)走るのが見えました。すごいです」と素直に感心すると、すかさず頭をフル回転させる。自分に今できることは何か。カウントは2ボール1ストライク。「三塁手が下がっているのが見えました。打って出るのと、バントと、どちらの確率が高いか。後悔はないように」と直後の4球目をセーフティーバント。打球は投前に転がり、一塁に送球されていたらアウトの可能性が高かったが、「まさか」の一手は、この打球を処理したオーストラリアの4番手・ウィルキンズも惑わし、目前を猛烈なスピードでかける周東にタッチを試みるフィールダースチョイス。「バントは考えもしなかった」という三走の周東だが、ウィルキンズのタッチを難なくかわし、値千金の同点のホームを踏んで試合を振り出しに戻した。
この一連の攻撃に対し、稲葉監督は「バッテリーにプレッシャーをかけるという意味でも大きかった」と、周東の2つのスチールをたたえると、さらに、源田のセーフティーバントの選択については「まさかと思いましたが、国際試合では、ああいうところで何かやってやろうという意識が大事です。壮亮が勝負してくれた。あの1点は非常に大きかった」とその判断を絶賛した。
中継ぎ陣の安定

守護神の山崎らリリーフが安定している侍ジャパン
8回には
近藤健介の二塁打を足掛かりに3連続四球(1つは申告敬遠)でこの試合、初めて逆転した日本だが、やはりポイントは7回の攻撃にあったといえる。注目すべきは1点ビハインドの場面で周東を起用したことだ。「まず同点に追いつこうと、正尚と浅村のところは周東に準備をしてもらっていたので迷いなく出せた」と稲葉監督は説明するが、勝ち越しの1点のためではなく、「まず同点」のために“切り札”を投入できたのは、今大会を通じてリリーフ陣が安定して結果を残しているからだ。「中継ぎがしっかりと抑えてくれているので、(中盤以降は)まず同点に追いつくことを考える」。
実際、5回無死一塁の場面では松田に送りバントのサインが出ており(初球空振りでサインが変わる)、6回にも無死一塁から一番の
丸佳浩が三塁前にバントを成功させてスコアリングポジションに走者を進めている。いずれも得点にはつながらなかったが、現在の投手陣(特にリリーフ陣)の状態、今大会の得点力を考えれば、今後もコツコツと1点を目指す攻撃は正解だろう。
この試合、先発の
山口俊が4回までに2点を失っているが、2番手の
田口麗斗(今大会初登板)以降、6、7回の2イニングをゼロ封の
岸孝之、同点後の8回を三者凡退で逆転劇につなげた
甲斐野央、さらに抑えの
山崎康晃と完璧に近い内容だった。今大会は終盤まで緊張感のある試合が続くが、接戦での強さは収穫。試合終盤での盛り上がりは、結果的に、次戦へ良い流れをもたらすことにもつながっている。
文=坂本匠 写真=高塩隆