
打者3人に無安打投球を披露した小石
43選手がNPB復帰を期して、11月12日に大阪シティ信金スタジアムで開催された12球団合同トライアウトに挑んだ。方式は例年と同様、1投手が打者3人と対戦するスタイルで、カウントは1ボール1ストライクから。無料開放されたスタンドからは歓声が飛び交うなど、人生を懸けた一投一打に注目が集まった。
投手は凡打に封じるか、野手は安打を放つのか――。“実戦形式”で行われるトライアウトにあって、結果ばかりに目が向く。ただ、ここでの“結果”は球団からの来季契約のオファーだ。打席や投球結果の結果が良くても、声がかからないことは当然ある。
では、12球団のスカウトたちは、何を見ているのか。とある球団プロスカウトが言う。
「投手なら良いボールを投げる、野手ならスイングが鋭いなどは、シーズン中から見ているので分かっていること。ここ(トライアウト)で、それを判断して獲得に動くことは、まずありません。あくまで、しっかり動けているかなどの最終確認です」
選手の能力は承知のうえだが、さらに見るポイントが、もう1つある。
「あとは姿勢です。たらたらやっている選手を獲得しても仕方ない。野球に対する姿勢は、大事なポイントになります」
この日、“姿勢”でアピールしたのが元
西武の
小石博孝投手だった。三塁ベンチから姿を現すと、スタンドに向かって声を張り上げた。
「元埼玉西武ライオンズの小石博孝です。今日は、よろしくお願いします!」
一礼してマウンドに向かうと、大歓声が沸く。そして打者3人に対して『左飛』『左飛』『三振』と無安打投球を披露した左腕は、挨拶の意味を説明した。
「今日、この日のためにやってきたわけではない。これからもプロ野球選手としてやるために、自分がやるべきことを考えて練習してきた。だから、僕という人を見てもらいたくて、挨拶したんです」
大半の選手が「持ち味は出せた」「すがすがしい気持ち」と、自らのプレーを振り返る中で、“姿勢”をアピールした小石。「もう一度、チャンスが欲しい」――。最後に口にした言葉が、行動の根底にある。プレーばかりを見られているわけではないトライアウトで、異例のアピールは届くのか。
文=鶴田成秀 写真=宮原和也