
2019年社会人野球表彰で投手部門ベストナイン&最多勝利投手賞のJFE東日本・須田幸太(左)と、最優秀防御率賞の東芝・岡野祐一郎
「元プロ」から、最高の言葉が贈られた。
12月11日、東京都内のホテルで行われた社会人野球表彰で最も輝いたのはJFE東日本・須田幸太(33歳)だった。土浦湖北高(茨城)、早大、JFE東日本を経て2011年ドラフト1位で横浜(現
DeNA)に入団。2018年までプレーし、今季からは9年ぶりに古巣復帰した。
都市対抗では全5試合に救援して4勝を挙げ、チームを初制覇へ導き、大会MVPにあたる橋戸賞を受賞。投手部門の社会人ベストナインと、最多勝利投手賞(7勝)のタイトルを獲得した。2019年は「須田の年」と誰もが口をそろえるが、元NPB選手は初のベストナインの感想を求められると、こう語った。
「今年1年、社会人野球を岡野君が引っ張ってくれた。よく頑張ったと思います」
須田はリリーバーに対して、東芝・岡野祐一郎は先発投手。登板8試合で6勝を挙げ、52イニングで自責点5(失点7)と、最優秀防御率賞(0.87)のタイトルを獲得した。投手部門におけるベストナインの選考も最後の最後まで、須田と岡野で議論が重ねられたという。ベテラン・須田は岡野のスターターとしての働きをリスペクトしたのである。岡野は自チームだけでなく、侍ジャパン社会人代表として出場したアジア選手権でも銀メダル奪取に貢献。11月の社会人日本選手権まで、1シーズンを通して主戦で投げ続けた。
須田のコメントを聞いた岡野は「自分ではそんな……。須田さんからそう思っていただけるのはうれしい」と恐縮した。
岡野は聖光学院高(福島)、青学大を経て入社3年目。昨年はドラフト解禁で有力候補に挙がっていたが、無念の指名漏れに終わった。
「指名がなかった悔しさ……。チームの方に支えられました。見返してやろう! と」
この1年間、岡野は「安定感」をテーマに「調子が良くても、悪くても勝てるピッチング」を常に追い求めてきた。チームに貢献した証でもある「最優秀防御率賞」は一番、欲しいタイトルであったのだ。失意のドラフトから1年後、
中日から3位指名を受けている。
「プロでもこのタイトルを目指していきたい」
受賞の感想を付け加えると「リードしてくれた柴原さん(健介=日大)、チームメートのおかげです」と、感謝の言葉を繰り返した。
表彰後の祝宴では須田と会話し、元プロから貴重なアドバイスをもらっていた。須田も昨年10月に「戦力外通告」という厳しい状況を味わった。一度、挫折を経験したアスリートは強い。岡野にとって、この1年間は決して遠回りではなかった。2020年、まさしく「即戦力」として、プロの世界へと飛び込んでいく。
文=岡本朋祐 写真=大泉謙也