「絶対に背番号43をお前につけてもらいたい」

再び一軍マウンドに上がる日を目指している高橋朋
待っていてくれる人がいるということが、どれだけの支えになるか。
いま、
高橋朋己は、その存在のありがたさで胸がいっぱいだ。
12月10日、育成選手として再契約を結んだ
西武の元守護神は笑顔だった。提示された年俸額が「半分」だったにもかかわらず、である。
「球団から、あらためて『復活したときに、絶対に背番号43をお前につけてもらいたいから、待っている』と言ってもらえたことが、すごくうれしかったです」
2013年に西濃運輸からドラフト4位で入団し、その投げっぷりの良さと力強いストレートを武器に実績を挙げていくと、2年目からはクローザーにも抜擢された。しかし、2015年途中から状態を落とし、ケガも重なり離脱と復帰を繰り返すことになる。2016年シーズン中に左ヒジ内側側副靭帯の再建手術(トミー・ジョン手術)を行い、翌2017年10月に復帰を遂げたが、2018年、開幕早々に左肩を故障すると、その治療とリハビリに時間を費やした。早期復帰のメドが立たなかったことから、2019シーズンは育成選手契約となり、背番号を「43」から「123」に変更していた。
「戻ってくれば、すぐにでも支配下登録する」とされていた中で、ケガも治り、ブルペンでの投球も行っていたが、状態が上がらず、ファームでの公式戦登板はなし。10月28日、みやざきフェ
ニックス・リーグの韓国・斗山戦で実戦復帰を果たしたが、自他ともに納得できる内容からは程遠く、支配下選手としての契約は見送られた。
育成選手制度の規約から、1度自由契約となり、再度の育成契約となる旨を伝えられるため、球団から呼ばれたときの話である。
「呼ばれる理由が分からなかったので、さすがに、こういう状態だし、『43を新人にあげるから』という話かなと思ったんです。だから、言われる前に、自分から先に『背番号の話ですか?』と聞いたら、『43は、お前のためにとっておいてある』と言ってくれて。そんなにまで僕を待って、とっておいてくれるんだと思いました。だからこそ、絶対に、もう1回でいいから着けたいなと思います」
球団への恩義に報いるべく、あらためて完全復活へ向けての意欲を高めた。
手術後に復調できなかった原因

2013年ドラフト4位で西武入団(右から2人目が高橋朋)
約2年間、故障を繰り返し、復調できなかった原因を、本人は次のように分析する。
「トミー・ジョン明けのトレーニングで、最初は、野球に連動する身体作りというのを目標に大きくしていたのですが、途中からみんなに『デカくなったね』と言われて、気を良くしてしまって、気がついたらウエートで野球とは関係ない筋肉をつけ過ぎてしまった。大きくして投げるとかではなく、ただ大きくして、そのまま放置してしまい、柔軟性ゼロ、可動域ゼロになってしまったことが一番の失敗でした」
そのことを、治療に通う中で指摘され、今一度トレーニングを見直した。すると、2、3年目のころには積極的に取り組んでいたことを、すっかり忘れてしまっていたことに気付いた。それを再び思い出しながら取り入れ、さらにウエートもごく軽いものにすることで、最大90キロまで増えてしまっていた体重を、理想的と考えている現在の82キロにまで落とすことに成功した。
フェニクス・リーグでの登板では万全の状態で投げられなかったが、秋のキャンプでは、「キャッチボールをしながら、過去の自分のフォームや『今のフォームがこうだよ』などといった話をいろいろ細かく聞けて、そこから徐々に『ああ、こうだった、こうだった、こうだった』と手繰って、繰り返していったら、ようやく納得するものにたどり着きました」。
「もちろん、今はまだ模索中ですけど」と、“完全復活”にはまだ時間を要するとしたが、その表情は明るい。
「良かったころの感覚に、今はだいぶ戻ってきたかなと感じています。あとは、力の入れ具合。それも、少し前までは、自分が戻そうとしているのとは逆の方向に行ってしまっていたのでわけが分からなくて、投げていても投げてない、ボールを持っていないみたいな感じだったのでつらかった。それに比べたら、すごく良くなっています」
予想以上のファンに……

契約更改でファンへの感謝の思いを述べた高橋朋
背番号とともに、もう1つ、高橋朋には待っていてくれている存在がある。ほかでもない。ファンである。11月30日に行われたファン感謝イベントに参加した際、予想以上のファンに声をかけてもらった。
「僕が活躍していたのは、5年ぐらい前の話なので、正直、『もう知らない人も少なくないんだろうな』と思っていました。でも、すごく熱狂的な人もいてくれて、僕の顔を見ただけで名前を覚えてくれていたりしたのが、すごくうれしくて。そんなファンのためにも、復活したいなという思いが強いです」
万全の状態で戦列復帰すれば、チームにとって相当の投手力アップが見込めるだけに、球団からは「せっかくここまで回復しているのだから、焦らず、慎重に」と念を押されたという。だが、高橋朋には危機感しかない。
「ありがたいお言葉ですが、そんなことを言っていられる年齢(31歳)ではありませんし、背番号でもありません。2月1日のキャンプ初日からバンバン投げられるように準備して、早くアピールして、『43』に戻したいと思います」
自分を信じ、待っていてくれる人のために――。
不退転の決意で2020シーズンに挑む。
文=上岡真里江 写真=BBM