
まずはタンキングをなくすための措置としてワイルドカードの枠を広げる方針を打ち出したMLB。それがより良い方向に進むのだろうか(写真は昨季世界一のナショナルズ)
MLBが2022年からプレーオフのフォーマットを大きく変えようとしている。各リーグで、ワイルドカードのチーム数を2から4に増やし、最高の成績を残した地区優勝チームだけが最初のラウンドは不戦勝。ほかの2つの地区優勝チームとワイルドカードの中で一番成績が良かったチームが、ほかのワイルドカードの3チーム相手に3試合のプレーオフをすべてホームで戦う。
そして2番目に成績が良い地区優勝チームが、ワイルドカードの3チームの中からまず対戦相手を選び、3番目の地区優勝チームが残り2チームの中から選び、残った2つのワイルドカード同士が対決する。
この変更で重要なのは近年のMLBで最大の問題になっている「タンキング」が減ること。タンキングとは試合にわざと負けるという意味である。18年、マリナーズは89勝しながら、今のままでは同地区のアストロズ、アスレチックスを上回れないとチームを解体、再建に舵を切った。
だがこのルールなら85勝以下でもプレーオフに出る可能性があるから、より多くのチームが勝つために戦う。そして地区優勝チームも、トップのシード権を得て不戦勝で勝ち上がれるように最後まで必死、2位から7位争いについても、より有利なスポットに入りたいことで、一つでも多く勝とうとする。
オフのFA市場が停滞していることも問題だったが、これでより多くのチームが新しいシーズンに即結果を残せるようベテラン選手の獲得に熱心になる可能性も高まり、トレードデッドラインでもチームは解体ではなく、補強に動く。再建チームの増加で観客動員減が問題になっていたが、歯止めがかかりそうだ。TV局はもちろん大歓迎。公式戦の終盤がさらに盛り上がり、プレーオフでも次のラウンドに進むか敗退するかの大事な試合が増えることで視聴率を稼げる。
オーナーもプレーオフのTV中継が増え、収益が増えることで喜ぶ。選手会は近年のタンキングでメジャー・リーガーの平均サラリーが下がっていることに危機感を抱いてきたが、再びオフのFA市場が活性化するのは大歓迎だ。
一方でへい害としては、レギュラーシーズンの重みが薄れてしまうこと。野球は4大プロスポーツの中で公式戦が162試合と最も多く過酷。かつてはそこで最高の成績を残した各リーグの代表だけがポストシーズンに進みワールド・シリーズで戦った。ところが14チームが出られるフォーマットで行くと、14年以降の6シーズンで5割以下のチームが4球団もプレーオフに進んでいたことになる。
負け越したチームが権威あるワールド・シリーズに進んで世界一になっても良いのかという議論があってしかるべきだろう。ちなみにほかのリーグでも、プレーオフ出場チームは増えている。
NBAは30球団中16球団、NHLは31球団中16球団と50パーセント以上。MLBはこのレベルに近づく。NFLは32球団中12球団で37.5パ―セント。割合的にはせめてこれくらいに抑えるべきではないか。とはいえプロ野球はビジネスである。タンキングとFA市場停滞の問題を改善に向かわせられるのも大きい。微調整はあってもプレーオフ改変は認められることになるのだろう。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images