読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。 Q.高校で野球をしています。昨秋のプレミア12を見ていると、日本はアメリカ代表のツーシーム系のシンカーに苦しんでいるように感じました。日本でいうシンカーとは少し異なるボールに感じましたが、違いを教えてください。また、このボールの投げ方、使い方、身につけ方を教えてください。(広島県・16歳)

イラスト=横山英史
シンカーは質問の方が感じたとおり、日本の方がイメージするシンカーと、プレミア12で侍ジャパンの選手たちが苦しんだツーシーム系のシンカーは異なるボールと言ってもいいかもしれません。
球種名については呼び方、捉え方が人それぞれなので正解はないのですが、日本の場合、シンカーというと
潮崎哲也(元
西武)や
高津臣吾(現
ヤクルト監督)が代表格で、どちらもサイドスローだったこともあり、1度ポンと浮き上がってから右バッターの内角に沈み込んでいく軌道のボールで(右ピッチャー)、球速はそこまで速いものではありません。左ピッチャーが投げるとスクリューと言われることも多く、
山本昌(元
中日)さんや、
石川雅規(ヤクルト)などが思い浮かぶと思います。
このような軌道のシンカーは、メジャーでは広い意味でチェンジアップと分類されることが多く、メジャーで言うシンカーは「シンキング・ファストボール」で球速があり(私個人としては140キロ台後半は出ているイメージです)、速球と同じ軌道からベースの近くで鋭く沈むボールのことを指します。分類としてはカット(・ファストボール)、ツーシーム(・ファストボール)やワンシーム(・ファストボール)と同じで、バッターにとってみると速球と変わらない球速で来て、ベースの手前(手元)で急激に変化するため、対応が難しく、国際大会では日本代表クラスのバッターたちでも凡打を繰り返すのです。日本で見られないボールかと言えばそうではなく、「高速シンカー」と呼ばれる球種はメジャーのシンカーに近いのではないでしょうか。
潮崎や高津は決め球として使うことも多く、三振を取るためのボールでしたが、メジャーの選手はもっと単純に「one pitch,one out(1球で打ち取りたい)」が一番の理想と考えています。シンカーの使い方もゾーンに投げ込んで相手に真っすぐだと思わせて手を出させ、内野ゴロを誘うという点で、速い変化球のカットボールやツーシームと同じですね。私の場合、握りはいわゆるツーシームからややずらして縫い目にかけないようにしていましたが、これは人それぞれ。ただ、右バッターのインコースに真っすぐを投げ込む意識だけは強く持っていました。質問の方も自分なりの“シンカー”を見つけてみてください。
●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に
楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。
『週刊ベースボール』2020年4月6日号(3月25日発売)より
写真=BBM