戦時中を除けば初の中止
東都大学野球連盟は4月17日、オンライン会議アプリを通じて会見を開き、同連盟・福原紀彦理事長(中大野球部部長)が通常開催での春季リーグ戦、入れ替え戦中止の経緯を説明した
やるのか、やらないのか――。現場は切迫していた。しかし、結論が出ない以上は、感染防止対策を講じた上で、開幕へ向けて、万全の準備を進めなくてはいけなかった。
東都大学野球連盟は4月17日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、「通常開催」での春季リーグ戦と入れ替え戦の取りやめ(中止)を発表した。リーグ戦中止は前身の五大学で発足した1931年春の創設以降、第二次世界大戦時中の43〜45年を除けば史上初である。
全国には北海道から九州まで26の大学連盟がある。各連盟は予断を許さない状況の中でも「開幕延期」へ向けて準備を進めていた。東都も「延期」を前提として協議してきた。だが、中止へ向けて「潮目が大きく変わった」(連盟関係者)のは、3月28日ごろだった。
「結果的にはデマ情報だったが、4月1日に非常事態宣言が出され、都市封鎖がされるのではないかと憶測があった。その際に、野球部寮を閉鎖するかどうか、現場でさまざまな意見があった」(連盟関係者)
各校からの意見聴取を踏まえ、執行部で素案をまとめ、4月5日から6日にかけ、加盟校の監督と電話で面談。緊急事態宣言が発令された同7日に再度、執行部案を加盟校へ提示。同10日から連盟役員へ持ち回り決議の実施について連絡。このような情勢では会議が開けないため、同13日から持ち回り決議を実施し、17日までに決議され、発表となった。
同連盟・福原紀彦理事長(中大野球部部長)は、中止の理由を3つ挙げた。
▼学生、関係者の安全と健康
▼人の移動が全国的な範囲で制限されている
▼通常のリーグ戦が開催できないことにより、東都の伝統が途切れるのではなく、最高のパフォーマンスでプレーをする状況を続けることが大事。時期を見定めて最善の措置を取る
入れ替え戦は「東都の華」
東都においてキーワードとなっている「通常開催」とは「2戦先勝勝ち点制のリーグ戦と、2戦先勝の入れ替え戦」を指す。一部から四部まで21校が加盟。春と秋、各部の優勝校を決めることはもちろん、一部最下位と二部優勝、二部最下位と三部優勝、三部最下位と四部優勝による入れ替え戦が行われる。福原理事長は「東都の華である」と語ったように、各部の入れ替え戦は同連盟の醍醐味だ。
例えば一部の選手は「優勝」よりも、まずは「一部残留」の最低ラインとなる勝ち点2を目指す。そこから、上を見た戦いを展開していくのが毎シーズンの流れだ。一部最下位校は「残留」のため、母校の名誉のために、入れ替え戦を戦う。一方、二部リーグ校は「二部優勝→一部昇格」を目指して切磋琢磨する。
一部は神宮球場でのプレーが約束されるが、二部は公営球場での開催。三部、四部は加盟校のグラウンドで行われる。環境面、注目度は大きく異なる。だからこそ、選手たちは正式な中止決定が発表されない限り、練習の強度を落とすわけにはいかなかったという。同連盟・瀬尾健太郎事務局長は切実に語る。
「(結論を)先延ばしするメリットはなかったです。(現場からは)早く何かしらの方針を出してほしいとの要望がありました。新型コロナウイルスがそれだけの国難であるということを連盟として発信していきたい、と。先延ばししても先が見えない。試合があると思えば、電車に乗って、練習場に集まることもあったそうです。当然、移動に伴い感染リスクが高まり、仮にケガをすれば医療従事者に負担をかける。区切りをつけないと、止められない。ある意味で、厳格な答えが必要でした」
全国26連盟の優勝校が出場する全日本大学選手権の開幕は6月8日から8月12日へ延期となった。東都の代表校選出方法等については5月20日前後をメドとしているが、緊急事態宣言が解除されるまでは、次の協議に入ることはしないという。
「1試合総当たり勝率制」は、「リーグ戦ではない」
全国の各連盟では開幕延期を受けて、短期間での日程消化を目的に「1試合総当たり勝率制」の導入を決定している。東都においても検討されたが、「議論が尽くされていない」と、意見は大きく分かれた。「2戦先勝勝ち点制」がリーグ戦として定義されている以上「1試合総当たり勝率制」は、「リーグ戦ではない」というのが現時点での考えだ。つまり「通常開催」ではない形での順位決定は、この段階ではあり得ないという。入れ替え戦を開催するための試合運営方法については、中止を含め、さらに突っ込んだ議論が必要になる。
今後、協議が再開できる段階となった場合、一部について今回に限っては「神宮開催」にはこだわりはないという。加盟校グラウンド、公営球場での開催を模索していく。瀬尾事務局長は「万が一、(神宮で)感染者が出た場合、東京六大学、
ヤクルトスワローズにも、保健所検査などで影響が出る。リスクは低くするべき」と、双方に気遣う見解を示している。
やるのか、やらないのか――。やっとはっきりした。あくまでも、加盟校の部員ファーストの結論である。「学生はこの決定を経て、気持ちを切り替えて、次の準備を進めてほしい。就職活動支援についても模索している。また、卒業後も野球を続けたい選手を対象としたトライアウトを実施し、社会人野球の関係者、プロ野球のスカウトらを集める案も複数の監督からは出ています」(瀬尾事務局長)。もちろん、これらのプランも、すべて収束してからの話だ。春の中止は決定したものの、秋の「通常開催」も不透明の状況だという。
21校が足並みをそろえて、感染防止対策を徹底していくことが最優先だ。一人ひとりの自覚ある行動。今回の東都大学野球連盟の「重い決断」を受けて、他の連盟も再度検討する判断材料とするのか、注視していきたい。
文=岡本朋祐 写真=BBM