
今年のドラフトは新型コロナ感染拡大の影響で5巡目指名までで終わることになった。それにより金の卵が増えそうな状況に。それでも注目のスペンサー・トーケルソン一塁手(写真)などは例年通りの高額契約となりそうだ
2020年のMLBのドラフトは通常の40巡ではなく5巡に減らされることになった。日数も6月10日と11日の2日で終わる。MLBのドラフトは1巡から10巡までスロットバリューといって契約金の額が設定されている。5巡に減らしたのは、そうすることで6巡から10巡のスロットバリュー分、総額2957万ドルを節約できるからだ。
1チームあたり平均100万ドル以下でしかないのだが、それでもその分を球団職員の給料に回したいという説明である。GMをはじめフロント陣は大反対したが、お金がないと言われてしまうとどうしようもない。
ちなみに1巡から5巡についてはスロットバリューは19年と同じ。タイガースが指名権を持つ1巡トップのバリューは841万5300ドル、2番目のオリオールズは778万9900ドル、3番目のマーリンズは722万1200ドルである。目玉選手はアリゾナ州立大のパワーヒッター、スペンサー・トーケルソン一塁手、バンダービルト大の好打者
オースティン・
マーティン中堅手兼三塁手。
彼らを筆頭に5巡までの選手はこれまで通り高額の契約金を手にする。5巡までの総額は2億3590万ドル上る。しかしながら支払いは遅れ、契約合意後に手にできるのは10万ドルだけ。残りのうち半分を21年の7月1日、もう半分を22年の7月1日に受け取る予定だ。ドラフト外で獲得する選手については、人数制限はないが、契約金の上限はたったの2万ドルである。この金額で喜んでプロに行く選手は多くはないだろう。
ちなみに19年にプレーしたメジャー・リーガーで46パーセントの選手は6巡以降に指名されていた。2年連続サイ・ヤング賞に輝いたジェイコブ・デグロムは10年の9巡(全体272位)である。危惧されるのはこうした才能ある選手が行き場所を失う事態だ。NCAAのディビジョン1の大学で野球選手に与える奨学金は限られている(フルスカラシップで11・7人分を最多27人で分ける)。
例年なら大学3年を終えてプロに行ったはずの選手が5巡までに指名されずにチームに残り、大学内定のトップ高校生で例年ならドラフト指名でプロ行きを選んでいた者が進学してくるとなれば、選手がだぶつく。押し出されて、2万ドルでも仕方なくプロに行く選手が出るかもしれない。
野球を諦めほかのスポーツに転向するかもしれない。それなら
ソフトバンクのカーター・
スチュワート・ジュニアの例もある。日本の球団が10万ドルくらいの契約金で獲得し育成してみてはどうかと思う。デグロムのようなスーパースターを見つけられるかもしれない。日本のファンも喜ぶだろう。
現在、MLB球団のフロントやスカウトは頭を抱えている。ご存じのようにアメリカ学生スポーツは季節性で、大学も高校もこれから始まるという時期に新型コロナの感染が拡大、今季のプレーはほとんど見ていない。身体能力に比重を置くNFL(プロフットボール)ならスカウトコンバインで個々の選手のスピードやパワーを計測すればいいが、野球は選手の実戦でのプレーぶりと技術を見ないと判断が難しい。
例年以上に上位指名選手にハズレが出て、指名漏れに金の卵がという事態が起きそうだ。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images