
例年スロースターターのアスレチックス。今季60試合のみのシーズンでカギを握るのは開幕投手で剛腕・フランキー・モンタスだ
ビリー・ビーンの作り上げたマネーボール、アスレチックスはスロースターターである。2018年は前半55勝42敗、後半42勝23敗、19年は前半51勝41敗、後半46勝24敗と、後半になると強くなる。
特に思い出すのは
イチローのマリナーズ1年目の2001年。あの年は前半44勝43敗、後半58勝17敗と、後半の勝率は驚異的な.770だった。なぜこうなるのか。前半はマイナーの若手も含めて、ロースターを頻繁に入れ替え、必要とあればトレードし、勝てる陣容を整えていく段階だからだ。
そして他球団のレギュラー選手が疲れてくる後半戦、チームが出来上がり、負けなくなる。しかしながら今季は162試合ではなく、60試合の短距離走。スロースタートで良いなどと呑気(のんき)なことは言ってられない。果たしてアスレチックスは最初から全速力で行けるのか?
プラス材料は、MVP候補の三塁手マット・チャップマン、一塁手マット・オルソン、オフにFAになる遊撃手マーカス・セミエン、パワーのある右翼手ステファン・ピスコッティなど、二塁を除いてレギュラー野手が決まっていること。
16年から18年、3年連続40本塁打、100打点のクリス・デービスもいる。入れ替え、テストしながら起用しなくて良い。マイナス材料は期待の若手左腕ローテーション投手の25歳、AJ・パックが肩を痛め、21歳のヘスス・ルサルドも新型コロナ感染でキャンプ合流が遅れ、開幕はブルペンからの登板となったこと。
ルサルドは昨年9月に初昇格、リリーフ登板だが12イニングで16奪三振、被安打5と大器の片りんを見せていた。開幕先発ローテーションには
ダニエル・メングデン、クリス・バシットらも入るが力は落ちる。
とはいえ今年、ビーン編成本部長はなんとしても勝ちたいだろう。セミエンはオフにFAになり、長期契約を求めているから、おそらく残留とはならない。チャップマン、オルソンは調停の資格を得るからMVPレベルの活躍をすれば年俸はどんどん跳ね上がっていく。チーム力という点では、今季がピークになるかもしれない。
期待は開幕投手で豪速球が売りの右腕フランキー・モンタスだ。昨季は開幕から好調で15試合で90イニングを投げ、9勝2敗、防御率2.70、97奪三振。サイ・ヤング賞候補のピッチングだった。ところが薬物検査でひっかかり、6月末に80試合の出場停止処分を受けた。今季は汚名挽回とモチベーションは高い。27歳、188センチ、111キロの恵まれた身体。90マイル(約144キロ)台後半のシンカーとフォーシームを軸に、88マイル(約141キロ)のスライダー、87マイルのスプリットで空振りをどんどん奪う。
空振り率はスプリットが40パーセント、スライダーが34パーセントだ。彼が引っ張り、ベテランで昨季15勝のマイク・ファイヤーズ、2ケタ勝利を計算できる左腕ショーン・マナエアで引っ張れば、そのうちルサルドも先発できるようになる。
昨季30度もセーブ機会に失敗したブルペンは心配だが、要は先発投手陣がどれだけチームをけん引できるかだ。果たして、昨年の後半(46勝24敗)のように勝つことはできるのだろうか。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images