グラウンドに響き渡った指示
神奈川工高は桐光学園高との神奈川秋季県大会1回戦で敗退。強豪相手にも臆せず、一塁ベンチでは高梨記録員がナインを盛り上げた
一塁ベンチでひと際、大きな声を出してチームを鼓舞していたのは記録員だった。
神奈川工高の女子部員・高梨真由内野手(2年)である。桐光学園高との神奈川県秋季県大会1回戦。チームは1対9の7回
コールド敗退も、最後の1球まで声を切らすことはなかった。
「チーム内には昨秋の横浜高との4回戦(0対1)と同じ緊迫感がありました。勝つ気でいたので、1点しか奪えず悔しい」
兄3人は神奈川における元高校球児で、いずれも外野手だった。高梨も自然と白球を追うようになり、港南台一中時代には控えの一塁手(背番号13)として、市大会準優勝を経験している。
「中学3年時に神奈工(かなこう)の試合をテレビで見て、熱い思いが伝わってきました。ここでプレーしたいと思いました」
3年間、白球を追うために神奈川工高に進学。右投右打の一塁手。公式戦には出場できないが、入学後、6月のB戦の練習試合(対東高)に代打で初出場すると、初安打(右前打)を放った。以降の出場機会はないが、男子部員と混ざって汗を流してきた。
神奈川工高は1990、2004年夏に準優勝を遂げるなど、「公立の雄」として存在感を示してきた。昨秋は先述のとおり、横浜高との4回戦で接戦の末に惜敗も、ベスト16と躍進している。だが、第3シードで臨んだ今夏の神奈川県高野連主催の独自大会は初戦(2回戦)敗退と、悔しさを味わった。
新チームは横浜地区予選を2試合、勝ち上がった。代表決定戦では私学の橘学苑高を撃破し、県大会進出を決めている。勢いそのままに強豪・桐光学園高に挑むも、力及ばなかった。1年生には女子マネジャーが在籍しているが、コロナ禍により、例年に比べて入学からの活動期間が短いことから、高梨が記録員に志願したという。
「勝ってほしい。それだけでした」
無観客試合で応援もなかったこともあるが、高梨の指示は、グラウンドに響き渡った。記録員の願いは届かず、秋の公式戦はこれで一区切りとなる。
「県大会へ向けて、ボルテージが高まった練習についていくのが正直、大変でした。これからは自主練習を増やして、課題を克服して、チームの力になりたいです」
神奈川工高には「公立から甲子園へ」という不変のスローガンがある。チームのために動く、女子選手としての挑戦は続く。
文=岡本朋祐 写真=大賀章好