「個人軍ではない」

見事にチームを連覇に導いた原監督
9月11日。
原辰徳監督は故
川上哲治氏の勝利数を超える球団では歴代最多の監督通算1067勝目を挙げた。試合後の会見。指揮官はチーム作りの根幹を問われ「“
巨人軍であれ。個人軍ではない”と。ジャイアンツが勝つために、実力至上主義という中でチームをつくっていく。チームの和というものはとても大事ですが、私自身がそのことを間違えてしまうと、チームの和も結束力もなくなる」と明かした。
ここまで幾度と口にしてきた「“巨人軍であれ。個人軍ではない”」という言葉。今季もここぞという場面で言葉にし、実際に采配でも見せてきた。最も象徴的だったのは9月21日の
広島戦(東京ドーム)だろう。4点をリードした5回だった。一死一、二塁のピンチを招くと、原監督はすかさず投手交代を告げた。
このとき、マウンドにいたのは2年目の
直江大輔。プロ初勝利目前、チームとしても点差はあった。それでも、である。指揮官はチームの勝利を優先し、最善の策を打った。「勝ち投手になるというのは簡単ではないということ。彼(直江)もそれを思い、また精進してマウンドに上がるということ」。そう、試合後の原監督は振り返っている。
一見すると非情にも見える采配こそが、チームに緊張感を生む。2018年オフに行われた3度目の監督就任会見。最初は柔和な表情でマイクを持っていた指揮官だったが、来季のチーム編成に話しが及ぶと、次第に熱を帯びていった。「戦う、目標を定めたチームが大事。そのメンバーに値する選手は誰なのか。言葉は適切ではないかもしれないが“巨人軍でないといけない。個人軍であってはならない”」。このときもそうだった。「選手がこの会見を報じたテレビやネット、新聞を目にすることを考えて、あえて実力至上主義を宣言したと思う」と言う関係者もいたほどだ。
選手に与える緊張感
独走でリーグ優勝を決めた先には、日本シリーズが待ち受ける。10月23日の
阪神戦(甲子園)では、その大舞台を見越したようなコメントも発した。5対4で勝利し優勝へのマジックナンバーを5としたが、自ら主力の
丸佳浩に言及した。指摘したのは5回。1点を奪い、なおも無死満塁で丸は空振り三振に倒れていた。後続が打って加点はしたが「やっぱりノーアウト満塁で、というのはある。あえて、丸という素晴らしい選手にあそこは何とかしてほしかった」と指揮官は求めた。あの試合、丸は2回に先制ソロも放っていた。それでも、さらに注文をつけたわけだ。
これも“個人軍”ではなく“巨人軍”を徹底させるため。18年オフにFA移籍後、昨季はリーグ優勝に貢献し、今季も開幕直後こそ不振だったが、その後は状態を上げてきた丸であっても、容赦はしない。勝利のためには実力至上主義。ある選手は「ホームランを打っても、満足なんかできない。うかうかしていられない」と言う。まさに狙いどおりだろう。ベンチでは時に笑顔を見せる名将。だが、巧みに「言葉の力」を使い、ときには影響力を鑑みて厳しいことを言い、チーム、選手の手綱を締めている。
写真=BBM