
11月6日、本拠地で渡辺の引退試合が行われる
11月6日に
楽天の
渡辺直人の引退試合が行われる。楽天でプロ野球人生をスタートさせ、横浜・
DeNA、
西武でもプレー。再び東北へ戻ってきた際には「ホームに帰ってきたような気持ち。東北で、イーグルスのユニフォームを着てプレーするというのはゾクゾクする。うれしくて言葉にならない」と笑顔で語っていた。ファンから愛され、チームメートからの信頼も厚い良き兄貴分が、楽天生命パークで現役最後のプレーを迎える。
渡辺は2007年に大学・社会人ドラフト5巡目で入団した。堅実な守備とガッツあふれるプレーでファンを魅了。その人柄も相まってチームメートからもファンからも愛された。09年には球団初のクライマックスシリーズ進出に貢献。自身にとっても「やればできる。そういうことを勉強できた」と最も心に残るシーンのひとつとなっている。
11年には金銭トレードで横浜(現DeNA)に移籍し、13年途中から西武でプレー。残念ながら優勝を経験することはできなかったが、「野球も人間としても成長させてもらった7年かなと思う」とあらゆるチーム、あらゆる立場でプレーしたことは財産だ。17年オフに戦力外を通告された際には引退も考えたというが、8年ぶりとなる古巣への復帰が決まり不安は消えた。だが、その後の野球人生には常に「引退」の二文字が頭の片隅にあったそうだ。
それでも向上心が衰えることはなかった。18年オフに話を聞いたときには「とにかく試合に出たい。爪痕を残したい」と39歳を迎えるシーズンを前に、まるで若手のような発言と野球少年のようなキラキラした目で話していた。「レギュラーを取るならショートがいい。僕が生きてきたのはショートだから」。同じ年齢の
平石洋介氏(現
ソフトバンクコーチ)が19年から監督を務めることが決まっており「アピールしないと」と話した笑顔も印象的だった。
しかし、コーチ兼任となった今季、出場機会は大幅に減り、引退を決断。9月13日には引退会見を開いた。渡辺が声を詰まらせたのは、ファンからの声援を思い出した時だった。「楽天にいたときもそうですし、他球団に移ってからも仙台でプレーするときには多くの声援をいただいて、その声援に助けられて……」。ファンに支えられ、ともに歩んだ14年間。ファンもまた、どのチームのユニフォームを着ていても声援を送り続けた。
「また楽天のユニフォームを着て引退するというのは自分の夢だった。幸せだなと思います」。プロ野球人生がスタートした東北の地で、どんなときも応援してくれた大切なファンの前で、渡辺直人はユニフォームを脱ぐ。
文=阿部ちはる 写真=BBM