
チャンピオントロフィーを持ち上げ喜ぶカーショー。隔離生活に耐え、ポストシーズンに弱いとレッテルを跳ねのけ、自身初の世界一に輝いた
ドジャースのエース、クレイトン・カーショーが卒業したハイランドパーク高校は、テキサス州ダラスの北の閑静な住宅街にある。ワールド・シリーズの舞台、グローブライフ・フィールドからは車で30分弱、37キロの距離だ。
豪邸が立ち並ぶ中に、1915年創立のレンガ造りの美しい建物が出てくる。カーショーがプレーした野球場、スコットランド・ヤードもアメリカ国内でも屈指の立派な施設だ。この高校はスポーツが強いだけでなく、卒業生の97パーセントが大学進学と、学力レベルも高い。
そんなエリート校だが、ほかの学校同様、新型コロナ禍により昨年度(2019年から20年)は途中閉鎖。新年度は9月に始まったが、学校に通うかリモート教育かは選択性。同校は通う生徒が多かったのだが、結果感染者が続出し、アメリカンフットボール部では11人の感染者が出て、最初の2試合をキャンセルしなければならなかった。
そもそもテキサスは州自体が大きいのもあるが、感染者総数は91万人とカリフォルニアと並んで最多、現在の新規感染者は一日7000人と全米ワースト。ホットスポットなのである。ゆえにカーショーはパドレスと雌雄を決した10月6日の地区シリーズから3週間も生まれ故郷にいながら、チームホテルと球場の2カ所にしかいられない。
「滞在ホテルから10分のところに家があるのに立ち寄ることもできない。友達や家族に会うのもガラス越し。奇妙なことだけど、ほかのダラス出身の選手もそうだから」と苦笑いするしかなかった。そんな中、カーショーは世界一に向けて投げ続けた。
10月7日のパドレス戦は6回を投げて3失点で6対5の勝利、15日のブレーブス戦は5回4失点で負け投手だったが、ナ・リーグ優勝決定シリーズそのものはチームメートが踏ん張って4勝3敗と逆転で制し、ワールド・シリーズ進出を果たした。
ワールド・シリーズは20日の第1戦と25日の第5戦に投げ、それぞれ6回1失点、5回2/3、2失点でともに勝ち投手になった。MLBはナ・リーグ優勝決定シリーズとワールド・シリーズだけは一般客を入れたが、集団感染を防ぐべく、約4万人のキャパシティに1万1500人と29パーセントの入りに抑えた。
それでも歓声は屋根付き球場で大きく鳴り響き、地元出身のカーショーへの声援はひときわ大きかった。カーショーはサイ・ヤング賞を3度獲得、通算成績は175勝76敗、防御率2.43で近年のMLBを代表する投手である。しかしながらどうしても世界一になれずポストシーズンに弱いとレッテルを貼られてきた。
32歳になり、全盛期は過ぎ、ポストシーズンのエースの座も26歳の
ウォーカー・ビューラーに譲ることになった。それでも長年追い求めてきた「ワールド・シリーズチャンピオン」の称号を得たことは大きい。「ずっと隔離生活だったけど、辛抱してきたかいがあった。今は信じられないような気分。これでようやく家にも帰れる」。ちなみにカーショーのポストシーズンの成績は通算37試合登板、先発30、13勝12敗、防御率4.19となっている。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images