一昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 東尾修が2試合目に完投勝利

西鉄・稲尾監督
今回は『1972年5月1日号』。定価は100円。
4月9日、小倉球場での東映戦ダブルヘッダーで西鉄がシーズンイン(前日、平和台での開幕戦は雨で中止となった)。
球場近くには、若い女性ファンの姿が多数見られた。ただし、残念ながら彼女らのお目当てはプロ野球ではない。
お隣の小倉体育館での歌謡ショーに詰めかけたファンだった。
西鉄・
稲尾和久監督は、ガラガラの球場のスタンドを見上げながら、
「向こうは女のお客。こっちは男。お客の内容が違うから比較にならんよ」
と強がりを言っていた。
しかし、試合前、その歌謡ショーの主役が球場にあいさつに来てびっくり。
「先輩、こんにちは、ご無沙汰しています」
と現れたのは、別府緑ケ丘高の後輩・にしきのあきらだった。
「よお、お前か隣で歌うのか。会うにはうれしいが、時期が悪いよ。なんでうちの開幕戦なんかを選んで九州に来たんだ」
とつい嫌味。聞けば、舟木一夫の予定だったが、いろいろあって代わりにやってきたのだという。
試合は1戦目は先発の
高橋明がつかまり、4対7も2戦目は
東尾修が完投で5対3の勝利を飾った。西鉄はオープン戦10勝だったが、東尾はうち6勝を稼ぐ好調さだった。
東尾はこの年、合宿所から出て一人暮らしを開始。エースへの階段をまた一歩進める年になりそうだ。
右足をケガし、離脱していたベテランの
榎本喜八も開幕に間に合った。相変わらず不思議な人で、記者とこんな問答があったようだ。
「右足はもう大丈夫なの」
「左足が痛いんだ」
「おや左足なの」
「いや腰だ」
それでも開幕ダブルヘッダーは3の1、3の2とまずまずのスタートを切った。
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM