12奪三振のシャットアウト

中京大中京・畔柳亨丞は専大松戸との1回戦で6安打完封(2対0)。11年ぶりのセンバツ勝利へと導いた
ストレートと分かっていても、バットが空を切る。高めのボール球であっても、ホップするような勢いがあり、思わず手が出てしまう。さらには、鋭い軌道によりバットを出せず、見逃してしまうシーンが何度も見られた。
中京大中京の右腕・畔柳亨丞(3年)の真っすぐは、甲子園で大きな衝撃を与えた。
1回戦で対戦した専大松戸(千葉)はバスターのほか、コンパクトなスイングで食らいついていったが、力及ばなかった。
畔柳は6安打を浴びながらも、要所を抑え、得点を許さない。堂々としたマウンドに見えたが、試合後は「初めての甲子園で緊張していた」と明かした。0対0のまま試合は進み、7回裏二死二塁から途中出場の櫛田理貴(3年)のランニング本塁打で2点を先制。均衡が破れたことで、畔柳は「ようやく緊張がほぐれました」と9回にも147キロをマークし、最後まで球威が衰えることはなかった。
12奪三振のシャットアウト(2対0)で、チームを11年ぶりのセンバツ勝利へ導いた。開幕前から好投手の一人に挙がっていたが、前評判どおりの投球を披露している。持ち味のストレートだけでなく、冬場から磨いてきたというスライダー、チェンジアップの精度も高かった。
中京大中京・高橋源一郎監督は「昨年の3年生が、この場を踏めなかった。その思いを背負ってくれたので、頼もしく思います」と語り、畔柳については「エースとして頼りになる。練習の裏付けを見せてくれた」と高く評価した。
旧チームは2019年秋の県大会、東海大会、明治神宮大会で優勝。10年ぶりのセンバツ出場を決めていたが、新型コロナウイルスの影響により中止。その後、愛知県の独自大会、8月の甲子園交流試合を通じて公式戦負けなしの「28連勝」で締めくくっていた。
昨年のドラフト会議で
中日から1位指名を受けた154キロ右腕・
高橋宏斗の背中を見てきたのが、1学年後輩の畔柳である。先輩に続き、NPBスカウトが注目する右腕。高橋監督は昨秋の段階で「同じ時期で比較しても、宏斗よりボールの力がある」と語っていたように、球質の良さは超高校級である。
昨季限りで引退した
藤川球児(元
阪神ほか)、そして
楽天・
則本昂大を彷彿とさせるストレートの伸びには、可能性を感じる。この日は最速151キロには届かなったが、あるNPB球団のスピードガンでは149キロを計測し、スカウトは「力感がある。リリーフタイプかもしれない」と、素材の良さに目を細めていた。
中京大中京は春32回、夏28回の出場で、春4度、夏7度の優勝を誇る超名門校だ。この日の白星で、全国トップの春夏通算134勝目となった。
今センバツでは春夏連覇を遂げた1966年以来の頂点を狙っている。心身ともタフである畔柳は2回戦以降、さらにコンディションを上げてくるに違いない。
文=岡本朋祐 写真=宮原和也