9回、落雷の恐れのため試合が一時中断

桐光学園高と横浜創学館高による神奈川県大会準々決勝は9回裏無死一、二塁の場面で雷鳴により中断。38分のインタバルを経て、試合は再開された
「中断」が明暗を分けた。
桐光学園高は横浜創学館高との神奈川県大会準々決勝(4月25日)で、2点をリードして9回裏の守りを迎えた。7回から救援した2番手の右腕・針谷隼和(2年)は先頭から2者連続四球。準決勝進出までアウト3つ。勝利を意識したのか、明らかなボール球が続いた。
ここで、雷鳴。審判員はすぐさま両校をベンチへ引き揚げさせた。落雷の恐れがあったため、場内アナウンスの指示により、観衆もスタンド下のコンコースへと移動した。
先発した桐光学園高の右腕・中嶋太一(3年)は三塁ベンチで、針谷に声をかけた。
「ボール自体は良いから、心配するな。気負い過ぎず、これも良い経験だから、腕を振っていけば大丈夫だから」
一時、雨脚が強くなったが、落雷はなかった。
38分のインタバルを経て、試合再開。無死一、二塁。針谷は初球、キレの良いストレートでストライクを奪った。ベンチの中嶋は「これで、行ける!」と確信したという。2球目も真っすぐでストライク。3球目は相手の一番打者がバントを試みるもファウルで、三振となった。次打者は右飛。そして、最後は3球すべてストレートで空振り三振。再開後の3人の打者に対し全10球、直球勝負を挑んだ。桐光学園高は5対3で逃げ切り、4強を決めた。
試合後、遊撃を守る主将・内囿光人(3年)は「あのまま試合が続いていたら、どうなっていたんでしょう……。(針谷は)気持ちをガラッと切り替えたのか? 自分の中でもビックリしました」と、試合後に目を丸くさせた。
38分で別人のように、劇的な変化を遂げるとは、相当な精神力である。神奈川県高野連の理事を務める桐光学園高・塩脇政治氏は言う。
「今の2年生は新型コロナウイルスの影響で、切羽詰まったところを見ていないですし、経験もしていません。今日の試合は、次につながるのではないでしょうか」
昨年は春の県大会、夏の県大会も中止になった。神奈川県高野連主催の独自大会が開催されたとはいえ、甲子園にはつながらず、3年生の「一区切り」とする位置づけもあった。昨秋はセンバツ甲子園への重要な資料となる県大会が開催。そして今春の県大会と、現在の2年生は公式戦の場が少ない。1試合、1試合が練習の何十倍の成長となるのである。
針谷は間違いなく、この準々決勝で一皮むけたはずだ。5月3日に予定される準決勝(横浜スタジアム)は、横浜高と対戦する。今春の桐光学園高は146キロ右腕・中嶋と針谷による継投が必勝パターンだ。決勝進出と、関東大会出場をかけた一戦から目が離せない。
文=岡本朋祐 写真=大賀章好