読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は現役時代、たびたび好走塁を披露した元中日ほかの井端弘和氏だ。 Q.一死走者一、三塁、どうしても1点を加えたい場面で、一塁ランナーがスタートし、キャッチャーが送球する間に三塁ランナーにホームを狙わせるサインがあります。このときの一塁ランナーのすべきこと、三塁ランナーがホームを陥れやすいスタートのタイミングや、注意すべきことを教えてください。(神奈川県・16歳)

中日時代の井端氏の走塁
A.一塁ランナーに抜群のスタートを切ることは求めませんがキャッチャーに二塁へ送球させるだけのスタートは必要です まず一塁ランナーですが、盗塁を成功させるためのスタートではないので、いわゆる「良いスタート」は必要ありません。とはいえ、途中で止まって挟まれるからとはいえ、あまりにもスタートが遅過ぎても相手に「何かあるな?」と気づかれてしまいますので、真剣に、そこそこのスタートは切れるようにはしたいところです。キャッチャーにセカンド送球をしてもらわないことには始まらない作戦ですからね。そのためにはスタートだけではなく、二歩目、三歩目からの加速もある程度は必要でしょう。うまく芝居をしろ、というわけではありませんが、誰が見ても盗塁を狙っているように装わなければなりません。
その上で、ピッチャーの投球に合わせて走りながらホームを横目で確認し、キャッチャーが捕球→セカンド送球のモーションに入ったら止まる意識を持ち、投げた瞬間にストップです。「(ある程度)真剣にスタートを切って、加速をしっかりする」と説明しましたが、あまりにも良い形で二塁に向かい過ぎて、ベースカバーに入った選手と距離が近くなり、すぐにタッチされてしまっては意味がありませんから。早い段階でタッチされるのはこの作戦上、もっともやってはいけないことの1つです。捕球したベースカバーの選手(セカンドもしくはショート)に対して、タッチできるかできないかの微妙な距離を空け、捕球後に追いかけさせるくらいの距離感がベストです。

イラスト=横山英史
このとき、三塁ランナーは通常どおりのリードでいいでしょう。あまりにも小さくしたり、大きくしたりすると、良いキャッチャーはよく見ていますから、気づかれてしまいます。ただ、ギャンブル的な作戦ですから、通常どおりのリードをとり、ピッチャーのモーションに合わせてシャッフル(こちらも通常程度)。キャッチャーが二塁に投げるモーションに入った瞬間にスタートが基本です。投げてからスタートでは、ほんのわずかな差ですが、テンポよくセカンドから返球があるとアウトにされてしまうことも考えられます。それでは遅い。勝負を懸けに行っているわけですから、少しでも相手を上回ることを考えてください。
仮にこの場面で三塁ランナーがスタートを切れず、一塁ランナーが一、二塁間で挟まれた場合はどうするか。後編で解説します。
<「後編」へ続く>
●井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。堀越高から亜大を経て98年ドラフト5位で中日入団。14年に
巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。内野守備走塁コーチとなり、18年まで指導。侍ジャパンでも同職を務めている。現役生活18年の通算成績は1896試合出場、打率.281、56本塁打、410打点、149盗塁。
『週刊ベースボール』2021年5月3日号(4月21日発売)より
写真=BBM