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プロ野球はみだし録

同時はセーフか、アウトか。結論は「俺がルールブックだ!」……?【プロ野球はみだし録】

 

巨人の初代「1」


1959年、パ・リーグ審判部長だった二出川延明


 セーフか、アウトか。塁上のプレーで素人にも判定できそうなことも多いが、なんとも微妙なタイミングで素人には断定しづらいケースも少なくない。ほぼ同時ということも珍しいながらもあるだろう。これをセーフかアウトか、瞬時に判定するのが審判だ。ちなみに同時はセーフ。近年では常識のようになっていることだが、この最強の矛と最強の盾との小さな激突ともいえそうな瞬間において、アウトと思われていた時代があった。こうした潮流を一変させたのが、前回の連載で登場した“名物審判”の二出川延明だ。

 1956年に南海(現在のソフトバンク)の皆川睦男(睦雄)が投じたド真ん中への棒球を「気持ちが入ってないからボール」と“誤審”した逸話を残す二出川。その約3年後、59年の西鉄(現在の西武)と大毎(同ロッテ)との一戦で、塁上の判定がセーフとなり、これに西鉄の三原脩監督が抗議する。三原監督は西鉄を前年まで3年連続で日本一に導いた名将。塁審は「同時だからセーフ」と判定したのだが、三原監督が主張したのが「同時はアウト」だった。

 これに球審が対応しきれず、三原監督の抗議はネット裏の審判室にまで波及する。そこにいたのが二出川だ。「ルールブックを見せてくれ」と詰め寄る三原監督に、二出川は「その必要はない。俺がルールブックだ」と一蹴したと伝わる。ちなみに、巨人の前身、大日本東京野球倶楽部が契約した第1号の選手だったのが三原で、そこで35年に背番号「1」を着けていたのが二出川。二出川は翌36年にプロ野球が始まると金鯱(のち合併を経て解散)に転じて、出場することなく引退している。

 このときは皆川のケースと違って正しい判定だったが、それでも傍若無人に聞こえなくはない発言だろう。誰ぞが「私がプレーブックだ」などと言ったら炎上すること必至だ。このときの二出川も、それなりに炎上したのかもしれない。ただ、二出川の「気持ちが入ってないからボール」は、有望な若い投手が棒球を投げるたびに言っていたという。二出川という存在を現在の物差しだけで測ろうとすると、単なる誤審になりそうだ。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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