
守護神をライバルのアストロズに出し、24歳のトロ二塁手を獲得。そのトロが移籍後大活躍を始めた。このトレードは成功と言われるようになるのだろうか
MLBでは例年トレードデッドラインを前に多くの選手が移籍する。今年も動きは活発でツインズは打率.294、19本塁打の主砲ネルソン・クルーズ・ジュニアをレイズに、レイズは6勝4敗、防御率3.87のベテラン左腕リッチ・ヒルをメッツにトレードした。
そんな中、普通ならありえないトレードが成立した。マリナーズがクローザーで、チームリーダーでもあるケンドール・グレイブマン投手を、ア・リーグ西地区でプレーオフ出場を争うアストロズにトレードしたのである。ここまでア・リーグトップの63勝40敗、弱点はブルペンのみという強豪に、今季30試合に登板、4勝0敗、10セーブ、防御率0.82の中心選手を譲ったのだ。
両チームは7月26日から28日シアトルで直接対決、27日の試合前に商談がまとまり、グレイブマンはホームのクラブハウスから遠征チームのクラブハウスに移った。2対2のトレードだが、マリナーズが交換に欲しかったのは24歳のエイブラハム・トロ内野手。メジャー3シーズンで、93試合に出場し打率.193、11本塁打。上でまだ結果が出ていない若手のためになぜ守護神なのかと多くの関係者が否定的だった。
地元紙シアトルタイムスのライアン・ディビッシュ記者は「(グレイブマンは)マリナーズのクラブハウス内での評判は悪かった」とツイートしている。
菊池雄星投手は28日の登板後、「彼(グレーブマン)はいろんな意味で柱だった。残念な気持ちも強い」とコメントしている。トレードを決断したのはジェリー・ディポトGM。素早くトレードをまとめる手腕に定評があるが失敗も多い。
過去に、ドジャースのクリス・テイラー内野手、レイズのライアン・ヤーブロー投手の才能に見切りをつけ、ほぼ無償で手放してしまったことがある。逆に昨年12月に獲得したクローザー候補ラファエル・モンテロは防御率7.27と期待外れ、今回グレイブマンに付けて放出する。ディポトGMは会見で「このトレードだけを見るとおかしいと思うかもしれない。しかしまだ他球団と交渉中で、全体の動きの一部に過ぎない」と弁明する。
マリナーズは二塁手が必要だった。そこでパイレーツのアダム・フレイジャーの獲得に動いたが、パドレスに競り負けた。ロイヤルズのウィット・メリフィールドにも動いたが、交換条件で折り合わなかった。結果実績のないトロになった。ところがそのトロが大活躍している。27日移籍した日、9回代打で2点本塁打。実はその前日(26日)、アストロズで「七番・三塁」として先発し、ここでも本塁打を打っていた。2日連続の本塁打で、2本目は前日まで所属していたチームから打ったというのはMLB史上初の珍事である。
そして28日はマリナーズで「五番・二塁」で先発、本塁打&盗塁とまたまた結果を出した。トロは内野の層が厚いアストロズゆえに出番がなかっただけで、パワーがあり、選球眼も良いと、評価するスカウトは少なくない。力は本物なのかもしれない。ディポトGMのギャンブルは果たして成功するのだろうか。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images