心にあった投手としての未練
BBCスカイホークスの148キロ左腕・渡邉一生はNPBスカウトが注目する存在だ
10月11日のドラフト会議を静かに待つ148キロ左腕がいる。BBCスカイホークスに在籍する17歳の渡邉一生投手だ。
「ここでは監督、コーチなど、たくさんのスタッフとの良い出会いがありました。自分の決断は間違いではなかった、と。この道が正解であったと証明したいです」
中学時代に在籍した
大和ボーイズでは131キロを計測し、東日本選抜でプレーする実力者だった。2019年4月、神奈川県内の強豪校に入学し、1年夏には県大会で登板。同秋には背番号1を着け、冬場には140キロを超えた。だが、昨年、新型コロナウイルスの感染拡大の影響による活動自粛期間が解除されたタイミングで、左肩に違和感を覚えた。地方大会中止を受けて開催された同夏の神奈川県高野連主催の独自大会は、メンバー外。2年秋からは50メートル5秒9の身体能力を生かし、外野手で出場も、投手としての未練がずっとあった。
将来について、じっくり考えた。自身を見つめ直す時間が多くなる中で、一つの決断を下した。通っていた高校を退学したのである。
「甲子園を目指すことよりも、投手としてプロへ行きたい。後者のほうが、上回りました。過去のドラフトを見ていても、甲子園に出場しなくても、プロに行ける選手はいる」
新潟江南高の左腕投手だった父・和也さんが見つけてきてくれたBBCスカイホークスの「高校生コース」に昨年11月、転入した。日本航空高の通信制課程を履修ながら、週6日の練習を消化している。
BBCスカイホークスは神奈川県大和市を拠点とする社会人硬式野球クラブチームだ。高校卒業に加え、希望進路を実現させるため、それぞれの内容に特化した取り組みを実践。社会人野球、社会人クラブチームへの練習参加、独立リーグのトライアウトなどをサポートし、各選手が硬式野球継続を目指している。渡邉が入学した理由はただ一つ「2021年のNPB入り」だった。
公式戦の機会はないが不安なし
BBCスカイホークスは社会人野球を統括する日本野球連盟(JABA)には加盟していないため、公式戦の機会がない。「実戦不足」が懸念されるところではあるが、渡邉は「それは、まったく感じません」と言い切る。
真剣勝負の場がなくても、不安を抱かないのは、自分と向き合ってきた自負があるからだ。
「ここではチームで行動するというよりも、自分でやらなければ、落ちていくだけ。自分でやる練習の大切さを日々、感じています」
プロ関係者が足を運ぶ練習、オープン戦は人生をかけたアピールの場である。人から見られている中で、最大限のパフォーマンスを発揮しようと、全神経を研ぎ澄ませた。
「1回だけでも見ていただけるチャンスがあれば、必ず、もう1回見たい! と思っていただけると信じて投げていました」
明らかに変わったボールの質
左肩に不安はない。トレーニングで柔軟性を高め、明らかにボールの質が変わった。春先に自己最速148キロを計測すると、NPB6球団が視察したオープン戦では147キロとポテンシャルの高さを披露。渡邉の評判は一気にドラフト戦線に広まったことは言うまでもない。つまり「リピーター」が増えたのだ。
ノーワインドアップからの真っすぐには球威があり、カーブ、チェンジアップと緩急自在。スライダーも強弱で使い分け、打者の打ち気をそらすことができる。8月末のオープン戦では5回無安打無失点、12奪三振と圧倒。アベレージで143キロと手応えを得ている。
「ドラフトは毎年、見ています。指名されない選手がほとんどであり、厳しい世界であることは理解しています。プロに入るために頑張ってきましたが、ここからどうこう、ということはないと思います。名前が呼ばれることを信じて、待ちます」
2014年4月のチーム発足時から指導する
副島孔太監督(元
ヤクルトほか)は「後がない試合はないが、それなりの実戦をこなしている。渡邉は身体能力が高く、メンタル、制球力、フォームといろいろな分野で自らをコントロールできる。精度が上がっていけば、手が付けられない存在になる」と期待を寄せる。
高校を中退。己の道を信じて、常に前を向いて突き進んできた。
「両親には、迷惑をかけました。もう一度、野球をやらせてくれたことに、感謝しています。だからこそ、恩返ししたい」
10月11日に一つの答えが出る。
文=岡本朋祐 写真=矢野寿明