「暫定」の主将から正式就任

三菱重工Eastの主将・江越は、都市対抗西関東地区二次予選第1代表決定戦(9月28日、対東芝)で、代打でサヨナラ打(3対2)を放った
阪神・
江越大賀を兄に持つ三菱重工East・江越海地は2度の「統合」を経験している。
長崎・海星高から地元の三菱重工長崎に入社。4年間プレーしたのち、三菱重工長崎と三菱日立パワーシステムズ横浜が統合され、2017年に三菱日立パワーシステムズ(20年途中から三菱パワー)へ転籍した。
そして、21年、4チームあった三菱重工グループの硬式野球部は、東西それぞれ1チームに再編・統合。三菱重工East(横浜市)と三菱重工West(神戸市・高砂市)が発足した。三菱重工Eastには三菱重工名古屋から4人、三菱重工
広島から8人が加わった。そこで、新主将に抜てきされたのが26歳の江越だった。
当初は「暫定」だったが、佐伯功監督からの全幅の信頼により、正式就任。なぜ、江越を抜てきしたのか、指揮官はその理由を語る。
「人間性。選手から認められ、信頼されている存在。寡黙な男ですが、チームを良い方向へ導いてほしいと思っていました」
統合チームを結束させるのは、大変な作業だった。春先のオープン戦、公式戦のJABA大会でも勝てなかった。5月のJABA北海道大会でキャプテンは動いた。毎試合後、選手ミーティングを開くようにしたのだ。スタッフがいない中で、腹を割って話し合った。反省を次に生かす。考える野球を実践。一人ひとりの役割が明確になると、チームが一つになった。
「皆、熱い思いでやっている。どんどん、意見を出し合っていこう、と。自分自身も上の年代になり、ガムシャラだけではなく、やりやすい環境をつくっていこうとしました」
JABA北海道大会で優勝。同大会Vで出場権を得た日本選手権では準優勝を遂げた。そして、迎えた都市対抗西関東地区二次予選。3チーム(三菱重工East、ENEOS、東芝)が出場した代表決定リーグ戦(9月14~16日)では決着がつかず、代表決定トーナメント(9月27~29日)へともつれ込んだ。
27歳の誕生日に劇打
三菱重工Eastは東芝との第1代表決定戦(9月28日)を制した。2対2で迎えた9回裏二死一、二塁から右中間へサヨナラ打を放ったのは代打・江越海地だった。カウント2ボール2ストライクからのフォークをとらえた。
この日は27歳の誕生日。「サヨナラタイムリーも初めてです」と、江越は興奮気味に話した。チーム発足以来10カ月、苦労した分だけ、最高の結末が待っていた。やはり、「野球の神様」はいるのだと、確信したシーンであった。
横浜スタジアムは歓喜に包まれたが、三菱重工Eastの戦いはまだ終わっていない。主将・江越には、いまも日本選手権準優勝の無念が残っているという。「初戦で負けるよりも悔しい。満足していない。あの敗戦から、よりチーム全体の意識が高くなった。決勝で負けた大阪ガスにリベンジ? 勝ちたいですが、目の前の相手を一戦一戦、倒していくことです」。西関東で見せた「勝利への執念」を、東京ドームでも継続していく。
文=岡本朋祐 写真=矢野寿明