読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。 Q.中学1年生です。監督やコーチから投球時、「開きが早い」とか、「開いてはいけない」という形で注意を受けます。そもそも、なぜ開いてはいけないのですか? 開くとどのような不都合があるのでしょうか。また、開きを抑えるにはどうしたらいいのですか。(埼玉県・13歳)

阪神時代の藪氏
A.2つめに腰の回転が弱くなり、威力のあるボールが投げられない 質問の「開き」とは、右ピッチャーの左肩、左ピッチャーの右肩のことを差していると考えられますが、質問中にある「開いてはいけない」は誤解を招く表現だと思います。というのも、ピッチャーは最終的に開かないとボールを投げることができないからです。ただ、同じく質問中にあるように「開きが早い」と問題が生じることは確かで、「開いてはいけない」はそれを大げさにした表現なのでしょう。
ではなぜ「開きが早い」のはダメなのか。その理由は大きく2つあると考えることができます。1つめは左肩(※ここからは右ピッチャーを想定して話を進めます)が早く開くと、ボールを持つ右腕がバッターから見やすくなり、タイミングを合わせられやすくなります。このコーナーでも、担当させていただいている連続写真のコーナーでもたびたび「ブラインド(目隠し)」=「バッターからボールをギリギリまで隠すこと」の重要性について触れているのですが、肩の開きが早いと、ブラインド効果が失われます。左肩を内側に入れろとまでは言いませんが、ステップしていく過程で左肩をホーム側に向けたままこらえる意識が必要です。その上で、左肩とホーム(バッター)との間にグラブを置いたり、左ヒジを曲げたりしておくことで、ブラインド効果を高めるのもいいと思います。
「開きが早い」と生じる問題の2つめは、体の回転が弱くなることです。想像してみてください。左肩が開いた状態でステップ足を着地すると、閉じた状態で着地したときと比較して、腰を回転させる距離が短くなりますよね? わずかな差ではありますが、それが与えるボールへの影響は大きいです。下半身からの連動で腕は振られるわけですが、回転が弱いと当然、腕の振りも弱くなり、結果、球威がなく、スピードも出ません。それでもボールの威力を求めるため、今度は腕の力のみで右腕をスイングしようとしてしまいます。そうしたところで速いボールが投げられるわけもなく、肩やヒジの負担が大きくなり、結果、故障につながる可能性もあります。
投球は弓に例えられますが、弓はギリギリまで引かないと、矢は飛び出していきません。投球も同じで、開きをギリギリまで抑えて、着地し、一気に回転してあげなければ、威力のあるボールは投げられません。質問の方は技術的な部分はもちろん、このような意識を持つといいと思いますよ。
●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に
楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。
『週刊ベースボール』2021年9月27日号(9月15日発売)より
写真=BBM