2年連続最下位からの躍進

高津監督率いるヤクルトの優勝も現実味を帯びてきている
セ・リーグの優勝争いの天王山、ヤクルト対
阪神3連戦(神宮)が10月8日から行われ、初戦はヤクルトが4対1で勝利し優勝マジック11を点灯させた。2戦目は阪神が2対1と意地を見せたが、3戦目は再びヤクルトが6対4と逆転勝ちしマジックをふたつ減らし9とした。残り試合は14試合(直接対決は2試合)でグッと6年ぶりの優勝を引き寄せた形となった。
ヤクルトは2015年に14年ぶりのリーグ優勝を果たしたが、その後5年間は5位→6位→2位→6位→6位と、2018年は2位になってはいるが
広島が独走したシーズンで、残りはすべてBクラス。それも最下位が3度で、今季は2年連続最下位で迎えたシーズンだった。シーズン前の評論家の予想も低く、ノーマークの評価だった。
ここで過去の最下位からのリーグ優勝を見てみよう。
☆1960年 大洋
1954年から6年連続最下位から初優勝
50年に2リーグ制と同時に発足した大洋。53年に松竹と合併し(球団名は洋松)、その翌年から最下位のトンネルは続いた。55年からは松竹が経営から撤退するが、チーム状況は変わらなかった。60年に西鉄の
三原脩監督を招聘。三原は54、56~58年に西鉄をリーグ優勝に導き、56~58年は
巨人を破り日本シリーズ3連覇を達成した名将。60年、開幕6連敗でスタートした大洋を見事に立て直し初のリーグ制覇を果たした。
☆1975年 広島
1972年から3年連続最下位で初優勝
それまで25年間でAクラスは68年の1度だけの弱小チームだった。そこで75年にジョー・ルーツ監督を招聘。帽子を紺から赤に変更し、チームに闘争心を植え付けた。ルーツ監督は審判の判定を不服とし暴行、退場を命じられわずか15試合でチームを去ったが、その後、
古葉竹識監督がチームを率い「赤ヘル旋風」を巻き起こし26年目の初優勝を飾る。
☆1976年 巨人
1975年は球団史上初の最下位
巨人がV10を逃した74年、チームの中心だった「ミスタープロ野球」の
長嶋茂雄が引退。即監督に就任したが、初年度の75年は主砲・
王貞治がケガで出遅れしたこともありチームは低迷し、球団史上初の最下位に。翌年はトレードで
日本ハムの
張本勲を獲得するなど強化を図り、ライバルの阪神に2ゲーム差をつけ優勝。

01年、2年連続最下位の近鉄を優勝に導き胴上げされた梨田監督
☆2001年 近鉄
1999年から2年連続最下位
97年から本拠を大阪ドームに移転したが、99年に最下位に転落。00年から
梨田昌孝監督が就任も連続最下位に終わったが、2年目にローズ、
中村紀洋を中心に「いてまえ打線」が大爆発。ダイエー、
西武とシ烈な優勝争いを展開し、最後は
北川博敏の代打逆転満塁サヨナラ弾で近鉄最後のリーグ優勝を決めた。
☆2015年 ヤクルト
2013年から2年連続最下位
11年から就任した
小川淳司監督だが、13、14年と連続最下位となり、
真中満一軍チーフ打撃コーチが監督に就任。大混戦となったセ・リーグだったが、
川端慎吾、
山田哲人らを軸にした打線を中心に、巨人を1.5ゲーム差でかわし14年ぶりのV。
サンプル数は少ないが過去5チームの傾向を言えば、すべてが監督就任1、2年目。
一方ヤクルトの00年以降の監督交代時の順位を見ると、
2006年
古田敦也 4位→3位
2008年 高田 繁 6位→5位
2011年 小川淳司 4位→2位
2015年 真中 満 6位→優勝
2018年 小川淳司 6位→2位
2020年
高津臣吾 6位→6位
と順位を上げることが多く、特にAクラスになることが多かったが、昨年の高津臣吾新監督は最下位に沈んだままだった。
課題の投手力が向上したヤクルト
ヤクルトの課題は一にも二にも投手力だった。19年はチーム防御率4.78でリーグ唯一の4点台。昨年も4.61で5位の広島の4.06からも大きく離された最下位。それが今年は10月11日現在、3.34(リーグ2位)と大きく改善された。先発が防御率4.83→3.53、リリーフが4.33→3.04とともに1.3近く良くなっている。エースの
小川泰弘が防御率4.61から4.03になり9勝、2年目の
奥川恭伸が防御率3.02で同じく9勝をマーク。4勝ながらベテランの
石川雅規も4.48から2.28とパフォーマンスを上げている。
リリーフ陣では58試合に登板した
今野龍太が2.20で7勝、26ホールドをマークする活躍を見せている。ただ充実した投手陣というわけではなく、前半先発だった
田口麗斗、
スアレスをリリーフに回すなど、やりくりしてのもので、高津監督の手腕が生きているということだろうか。
また打線も19年がチーム打率.244、20年が.242とともにリーグ最下位だったが、今季はリーグ3位の.256とレベルアップしている。山田哲人、
村上宗隆、
青木宣親と軸はしっかりしていたが、今季は一番に
塩見泰隆が定着、新外国人の
オスナ、
サンタナも日本野球に対応。交流戦あたりから打順に大きな変化がなく、どっしりと腰を据えた打線が組めているのも強みだ。
2年目の高津監督の下、史上6度目の最下位からの優勝も秒読み段階に入っている。
文=永山智浩 写真=BBM