一橋大から東大へ

東大の四番・井上慶秀は今年8月で25歳。「赤門」への熱き思いを体全体で表現した
神宮最終打席もフルスイングを貫いた。東大の四番・井上慶秀(4年・県長野高)は法大2回戦(10月24日)の7回裏の第3打席で痛烈な左前打を放った。試合は0対0と緊迫した展開。試合終盤で1点が欲しい場面であり、東大・
井手峻監督はここで代走を送った。
176センチ94キロの巨体を揺らして一塁ベンチへ戻る際、スタンドからは拍手が送られた。「4年間、お疲れさま!」「ありがとう!」の意味が込められていたのは、言うまでもない。
1996年生まれの25歳。もともと東大志望だったが、2浪を経て一橋大に入学し、準硬式野球部でプレーしていた。2017年秋、東大は法大に2連勝して15年ぶりの勝ち点を挙げた。主将・山田大成、左腕エース・
宮台康平(現
ヤクルト)らの活躍を見て、赤門への思いが再燃。もう一度、難関入試に再挑戦し、東大野球部の門をたたいた苦労人である。
4年春に一塁手の定位置を獲得すると、4打点(打率.242)をマーク。今秋も5打点(打率.281)を挙げ、チームの春1勝、秋1勝にバットで貢献した。3年秋まで通算6安打であったから、今年1年間の計20試合で17安打(春8、秋9)は立派な数字と言える。
学生ラストゲームとなった法大2回戦は0対0の引き分け(連盟規定により9回打ち切り)。東大は1勝8敗1分で全日程を終えた。東大野球部での感想を問われると、井上は言った。
「4年間で2勝しかできなくて……。もっと勝たないといけないな、と」
大学卒業後は、社会人野球の企業チームでプレーを継続する希望を持っている。
「OBの力があって、(社会人の)練習に参加させていただき、(東大進学に関しても)僕1人の力で、とんとん拍子で来たわけではない。縁に恵まれているな、と。いろいろな人に導かれて、野球ができる。感謝の気持ちです」
上のステージでの活躍を目指すため「明日から練習しないと。時間があるようでないので」と、危機感を募らせる。井上のあくなきチャレンジ。今後もバットで支えてくれた関係者へ恩返しをしていく。
文=岡本朋祐 写真=長岡洋幸