無名の存在からジャンプアップ
その年のシーズンで最も優れた成績を残した選手をポジションごとに選出するベストナイン。記者投票によって選定されるが、今年注目されるのがセ・リーグの遊撃手部門だ。巨人・坂本勇人が18年から3年連続6回受賞し、今年もシーズン前は本命視されていたが、阪神にドラフト6位で入団した中野拓夢が正遊撃手として大活躍し、記者投票の結果が注目されている。
昨秋のドラフト時は阪神・
佐藤輝明、
楽天・
早川隆久、
広島・
栗林良吏ら1位指名された選手たちに注目が集まる中、中野は無名の存在だった。だが、俊足を生かした広い守備範囲、不安視された打撃でも快速球を引っ張り力強い打球を連発したことで評価を高めていく。開幕一軍入りを果たすと、4月の中旬に
木浪聖也から遊撃のレギュラーを奪って攻守の要に。前半戦の活躍が認められ、プロ1年目に球宴で初出場を果たした。
後半戦も佐藤輝が打撃不振でファーム降格を経験する中、高いパフォーマンスを常に維持している。盗塁数は2位のチームメート・
近本光司に6差をつける30個をマークし、盗塁王獲得がほぼ当確だ。やみくもに走るわけでなく、失敗は2つのみも評価できる。盗塁成功率93.8パーセントはただ足が速いわけでなく、走塁技術の高さを表している。

ルーキーながら勝利への貢献度が高かった中野
遊撃の守備で17失策はリーグワーストの数字と確実性はまだまだ磨かなければいけないが、軽いフットワークと球際の強さ、強肩でチームの窮地を救う好守を再三見せている。守備範囲が広いがゆえに、安打性の打球を弾いて失策と記録されたことも。17失策という数字ほど不安定な守備ではない。スポーツ紙記者は「中野がいなければ阪神は今の位置にはいない。それぐらい貢献度は大きい。優勝すればMVP級の活躍」と働きぶりを高く評価する。
東京五輪で存在感発揮

遊撃手でベストナインを3年連続6回受賞している坂本
一方、坂本は開幕から好調な滑り出しだったが、5月9日の
ヤクルト戦(東京ドーム)で走塁中に右手親指を骨折。1カ月間戦線離脱して復帰以降はなかなか調子が上がらなかったが、大舞台に強いのはさすがだ。東京五輪では侍ジャパンで不動の遊撃手としてフル出場。オープニングラウンド初戦のドミニカ共和国戦でサヨナラ安打を放ちチームを勢いに乗せるなど、金メダル貢献に大きく貢献した。野球評論家の
立浪和義氏は週刊ベースボールのコラムで坂本の貢献度を高く評価している。
「今回は誰かではなく、チームで勝ち取った金メダルだったと思いますが、1人MVPを挙げるとしたら坂本選手です。攻守の活躍だけでなく、映像で見ていても冷静で、頼もしかった。特に若い選手には、彼の経験や掛ける言葉が大きな力になったと思います」
9月はチームが失速する中で月間打率.352、5本塁打、14打点と奮闘。今季117試合出場で、打率.271、19本塁打、46打点は納得できる数字ではないかもしれないが、遊撃で4失策と安定感が光る。32歳と中堅の域になったがその実力に陰りは見えない。球界を代表する遊撃として異論はないだろう。
過去のセ・リーグの遊撃手部門を見ると、坂本は当時阪神の
鳥谷敬(現
ロッテ)と毎年ベストナインで熾烈な競争を繰り広げていた。中野は鳥谷の後継者になれるか。坂本にも意地がある。今後も両選手のハイレベルな争いが楽しみだ。
写真=BBM