勝率で慶大に及ばず

早大の主将・丸山壮史はこの1年間、戦う姿勢を植え付けた。春、秋を通じてリーグ優勝はならなかったが、後輩に財産を残している
負けから得られる財産があるとするならば、今秋の早大は2022年につながる成長を実感したはずだ。4年生は「戦う姿勢」を、後輩たちに見せた。今季最終戦の慶大2回戦。早大が昨秋以来のリーグ優勝を遂げるには、9イニングで勝利することが唯一の条件だった。
早大は初回に3点を先制したものの、5回に1失点、7回に追いつかれた。引き分けは許されない。9回裏、二死二塁と見せ場をつくったものの、後続が倒れた(3対3)。早大は0.5ポイントを加え、勝ち点(ポイント)では慶大と「6.5」で並んだが、勝率で及ばず、慶大の2季連続39度目の優勝が決まった。
慶大 4勝1敗5分 勝率.800
早大 5勝2敗3分 勝率.714
就任3年目の早大・
小宮山悟監督は「連敗スタートからあと一歩のところまできたのは、立派だったと思います」と、学生たちの健闘ぶりをたたえた。立大との開幕カードで2連敗。以降、4カードを5勝3分であるから、見事に立て直した形である。
「かなり厳しいことも言ってきましたが、歯の食いしばり方、必死さが、見ている人に伝わるチームを、何とか築き上げた。(2022年はさらに)強い組織にしたいと思います」
リーグ戦を迎えるまでの「自己管理」の部分でも、小宮山監督は評価を与えた。
「PCR検査を10回ほど実施しましたが、誰一人として感染者が出なかった。立派だなと、つくづく感じております」
横で聞いていた主将・丸山壮史(4年・広陵高)とエース右腕・
徳山壮磨(4年・大阪桐蔭高、
DeNAドラフト2位指名)は、小宮山監督から出た労いのコメントに、涙をこらえることができなかった。
「この1年間、正直、つらいことばかり。(エースナンバーの)背番号11を着けている自分が不甲斐ない投球が続き、チームの皆に申し訳ない。今日は気持ちで投げたが、勝利に結びつけられず(8回3失点)、悔しい」(徳山)
「春5位から始まり、監督からは厳しいことを言われ、見返してやろう! と。監督を胴上げできなかったのは、悔しい。自分たちの中で手応えは感じていましたが、何かが足りなかった。来年は中川(卓也、3年・大阪桐蔭高)、蛭間(拓哉、3年・浦和学院高)を中心にやってくれるはずです」(丸山)
横で話を聞いていた小宮山監督は、腕を組んでいた。2人の一言一句にじっくり耳を傾け、何度もうなずいているのが印象的だった。
重い十字架を背負った現役学生
今年のチームスローガンは「一球入魂」。これは早稲田大学野球部の「育ての親」と言われる初代監督・飛田穂洲氏の言葉である。現役学生は、重い十字架を背負った。小宮山監督に言わせれば「一球入魂」は当然の考えであり、あえて設定するものではないという。監督就任時から「早稲田には『一球入魂』しかない」と、スローガンを設定すること自体にも否定的だった。しかし、指揮官には学生主体で野球部を運営する方針が根底にあり、部員たちの考えを尊重した。
今年1年間で「一球入魂」から、技術向上だけでなく、人間性の向上という観点からも多くを学んだ。もちろん、来年以降も「一球入魂」は、永遠のモットーとして継承される。早慶戦での悔しさは、早慶戦でしか晴らせない。小宮山監督はこの日、3度目の「立派」というフレーズを使って、会見を締めている。愛情が、人を動かす。優しい口調で語った。
「もともと能力のある連中で、勝たせてあげたかった。最後の最後で力尽き、引き分けで優勝を逃し、卒業する4年生も、何かを感じるものがあるはず。立派になって、安部球場に戻ってきてもらいたい」
最上級生は来年から、稲門倶楽部(早稲田大学野球部のOB会)の会員になる。小宮山監督は卒業生のグラウンド訪問を、大歓迎している。練習に励む現役部員に、𠮟咤激励をしてほしいという。就任以来、目指してきたのは「安部球場=神宮球場」。死に物狂いで取り組む、練習での姿勢である。「一球入魂」の精神。確実に、その理想に近づいている。
文=岡本朋祐 写真=矢野寿明