42、48、58
大洋のスーパーカー・トリオ(左から屋鋪、加藤、高木)
2021年、パ・リーグで4人の選手が盗塁王のタイトルを分け合った。これだけでも珍事なのだが、
日本ハムの
西川遥輝は4度目だが、
西武の
源田壮亮と
ロッテの
荻野貴司、
和田康士朗は初の戴冠で、中でも和田は打席と盗塁の数が同じと、この快挙を一層、珍しい色に染め上げている。いずれも24盗塁で、20年の盗塁王だった
ソフトバンクの
周東佑京がマークした50盗塁の半数に満たないとはいえ、3人の韋駄天が並び立ったことは間違いない。
一方で、長いプロ野球ファンにとっては、3人の韋駄天といえば昭和の終盤に一世を風靡した“スーパーカー・トリオ”が真っ先に挙がってくる気がする。1985年の大洋(現在の
DeNA)で、一番から三番まで
高木豊、
加藤博一、
屋鋪要の韋駄天が並んで、ひたすら塁間を駆け回っていた。それぞれ微妙にタイプは異なっていたが、それも“トリオ”を魅力的な存在に昇華させていた気がする。翌86年の後半戦に入って加藤が故障で離脱、“トリオ”も瓦解して、活動期間(?)は2年に満たないが、その存在は強烈な印象を残す。
時は流れ、プロ野球の戦術も変化しているから、2021年の盗塁王たちと単純に比較することはできないとはいえ、数字のスポーツとさえいわれるのが野球。盗塁の数を見てみると、大きな差があるのも確かだ。一番の高木はリーグ4位の42盗塁で、105得点は自己最多。リーグ最多の39犠打もマークした二番の加藤はリーグ3位の48盗塁で、犠打と盗塁ともに自己最多となる。プロ16年目で迎えたキャリアハイだった。三番の屋鋪はリーグ2位の58盗塁で、78打点とともに自己最多だ。高木は前年の84年に56盗塁で、数は減らしたものの屋鋪も翌86年から3年連続で盗塁王に輝いているが、この数で85年は3人そろって盗塁王ではないのだ。
ただ、このとき大洋は4位。2021年の盗塁王たちが所属するチームも1位でペナントレースを終えることはできず、源田のいる西武は最下位だった。最短コースでスピードが求められる一方で、盗塁は優勝に向けては回り道に見えなくもない。ゲームから緩慢さを排除するための最短コースだとは思うのだが……。
文=犬企画マンホール 写真=BBM