兵庫・小野高、慶大で活躍し、東京六大学リーグ戦では早大・和田毅[ソフトバンク]と真剣勝負を演じた元フジテレビアナウンサーで現スポーツアンカーの田中大貴は、1980年生まれの「松坂世代」の1人。そんな野球人・田中が、同年代の選手たちをプロ野球現場の最前線で取材、至極のエピソードをコラムに。週刊ベースボール本誌から週刊ベースボールONLINEに場所を移し、連載を続けていきます。 2021年は運命的な1年

昨季限りで現役生活にピリオドを打った斎藤
プロ野球、2022年シーズンが始まる前に世代をつくってきた2人がお互いをこう評した。
「誰に対しても変わらない方。優しい。そして懐が深い。誰もが好きになる方」と語った
斎藤佑樹。
「とても勉強熱心。考えている。準備する力がある。野球という言葉を抜いても一般的に見ても優秀な子」。こう語った
松坂大輔。
12年ぶりの再会のあと、お互いの印象をこんな表現で教えてくれた2人。
1988年生まれの「ハンカチ世代」をつくった斎藤と1980年生まれの「松坂世代」を築き上げた松坂。それぞれの世代を彩った2人が奇しくも同じ年に引退を表明した2021年。この2人が球界を去る……ある種、運命的な1年だと感じた。
40歳を過ぎるまで現役を続け、同世代のほとんどが引退し、最後の最後まで世代のトップを走り続け、現役を去ることを決心した松坂。一方の斎藤はプロでの現役生活は11年、まだ同世代の多くが現役としてチームの中心として活躍する中、先に引退することを選んだ。
世代をつくり上げた2人が現役を去るとき、同世代の状況は違っていた。引退した世代の先駆者が今、お互いをどう思っているのか非常に気になっていた。引退して初めて迎える開幕前、松坂と斎藤は現役時代の結果や評価などではない部分で、お互いを尊重し合っていた。
「松坂さんとお話させていただくのは大学時代以来でした。偉大なる存在。小学生のとき、松坂さんや松坂世代の皆さんがいたから、あの場所に行きたいと思いました。“松坂さん”という大き過ぎる存在。でも、大輔さんと呼んでいいよって。僕を受け入れてくれました。すごいのに誰に対しても自然体。穏やかで優しい。素晴らしいです」
松坂への想いをこう語った斎藤は、松坂大輔という男に、そして松坂世代にあこがれ、恋焦がれ甲子園を目指し、プロを目指してきたんだと再確認していた。
共通していた人間性を評した部分

今春キャンプでは精力的に取材を重ねた松坂
一方の松坂はハンカチ世代を評価し、斎藤に敬意を表していた。
「よく考えて、勉強しているよね、あの子は。久しぶりに会ったとき、僕にどんなことを聞きたいか、どんなことを伝えたいかノートをつくってきていた。そういうところだよね。準備する力、思考力がある。野球選手でなくても魅力的な人間になっていたと思う」
共に共通していたのは、お互いの人間性を評していた部分。現役時代なら違った表現でお互いを表現していたかもしれない。もっと技術的な部分、選手的観点から会話をして、質問や意見をぶつけ合っていただろう。
松坂によって「~世代」という言葉が生まれ、それから8年後、斎藤が出てきたことによって、松坂世代後、初めて「~世代」という言葉が使われ「ハンカチ世代」が注目を浴びることになった。
いつも自然体で誰に対しても変わらない松坂大輔。
勉強熱心で常に準備し、相手と向き合う斎藤佑樹。
松坂世代がハンカチ世代を生み出し、時代をつくった先導者2人のタイプは違えど、お互いの魅力を人間的な部分で感じていた。
今回、時代を彩った2人からお互いの印象を聞いてみて、とても興味深かった。松坂が引退後、これからの松坂世代をどう表現するのか。そして斎藤がまだ現役が多く残るハンカチ世代をどんな言葉で支えていくのか。
いよいよ開幕が見えてきた2022年シーズン。松坂と斎藤は引退した今だからこそ、現役時代とは違った観点や表現方法で「世代」を盛り上げてくれるに違いない。楽しみな球春になりそうだ。
文=田中大貴[スポーツアンカー] 写真=BBM