巨人で10年間活躍した高橋尚成が海外FA権を行使したのは、日本シリーズで日本ハムを破った2009年のシーズン後だった。メッツとマイナー契約を交したが、このとき34歳。翌年4月2日には35歳になる。年齢のため評価は高くなかった。だが、招待参加したスプリングトレーニングで6試合に登板して2勝0敗、防御率2.77の成績を残し、メジャーの開幕ロースター入りを果たした。 メジャーでの落ち着いた投球

メッツ時代の高橋
デビュー戦は35歳になった直後の4月7日。地元のマーリンズ戦だった。6対6の延長10回、六番手でマウンドに登った。安打と犠打で一死二塁とされ、二番のロニー・ポーリーノに中前打を喫して勝ち越される。返球の間にポーリーノが二進。続く三番のハンリー・
ラミレスを敬遠したところで交代した。メッツは6対7で敗れ、高橋は1/3回、2安打、1四球1失点で敗戦投手になった。
黒星スタートとなったが、その後は4試合連続で無失点と、落ち着いたピッチングを披露した。そして4月23日の本拠地でのブレーブス戦。メッツの先発メインが故障のため0対1とリードされた4回二死一塁で降板。ここで高橋が急きょ登板した。打者の
川上憲伸を三振に仕留めた。5回は二死から四球を出したが無失点。その裏、メッツはアイク・デービスの本塁打で1対1に追い付く。その本塁打のあと、打席に立った高橋は川上から左前打を放った。高橋にとってメジャーで唯一の安打となる。
6回にはジェイソン・ヘイワード、エリック・ヒンスキー、メルキー・
カブレラを連続三振。その裏に2点をもらう。3対1とリードした7回二死三塁から
マーティン・プラードに適時打を喫して3対2とされたところで降板。メッツは5対3で勝ち、高橋は初勝利を手にした。「1年間メジャーにいればいつか勝てると思っていましたけど、こんなに早くとは」と喜んだ。
5月21日から7月31日までは先発で12試合に登板。その後ブルペンに戻り、8月にフランシスコ・
ロドリゲスが故障で離脱した後はクローザーに起用された。結局メッツでは先発12試合で4勝4敗、防御率5.01、救援では41試合で6勝2敗8セーブ、防御率2.04。先発、中継ぎ、クローザーを務めた1年間を「(将来に向けての)いい土台づくりになった」と振り返ったものだ。
オフにFAになり、エンゼルスと2年総額800万ドルで契約。メッツ時代の年俸100万ドルから大幅アップとなった。2年目以降は救援専門。12年途中にパイレーツへ移り、13年はカブスでメジャー生活を送り、14年から
DeNAで2年間プレーして現役を退いた。
現在はロサンゼルス在住。豊富な経験を生かしてメジャーのニュースや話題を発信している。
『週刊ベースボール』2021年11月29日号(11月17日発売)より
文=樋口浩一 写真=Getty Images