今回からは楽天・田中将大投手のメジャーでの活躍ぶりを3回にわたって紹介する。ヤンキースに7年間在籍し通算78勝46敗、防御率3.74。勝率.629はメジャーで100試合以上に先発した日本人投手10人の中で最高成績だ。田中は2013年、レギュラーシーズンで24勝無敗、ポストシーズンでも2勝無敗で楽天を日本シリーズ初制覇に導いた。完璧なシーズンを送り、ポスティングシステムを利用してのメジャー移籍を表明した。 1年目から13勝をマーク
ヤンキース入団会見での田中
このときのポスティングシステムは、最高額を提示して落札した球団が独占交渉権を得るそれまでのシステムと違い、譲渡金に応札する複数の球団と交渉できることになっていた。田中はヤンキースを選び、2014年の1月22日に7年総額1億5500万ドルの超大型契約を交わしたことが発表された。
松坂大輔が旧ポスティングシステムでレッドソックスへの移籍時は、落札額が5111万ドルあまりで年俸が6年総額5200万ドル。合計で1億ドルを超え、大きな額が話題になった。田中自身の年俸はそれをも上回るもの。日本人選手のメジャー移籍において、頂点と言えるだろう。
入団発表は2月11日、ヤンキー・スタジアムのVIPルームで行われた。日米の
大勢の報道陣を前に田中は「ニューヨークという街は厳しいところと聞いているが、そこで自分の力を発揮できるように頑張りたい」と力強く言った。
鳴り物入りでピンストライプのユニフォームを着た田中がデビューしたのは4月4日。開幕4試合目のトロントでのブルージェイズ戦だった。1回表に2点を先行してもらったその裏。先頭のメルキー・
カブレラに本塁打を喫した。2回裏には九番のジョナサン・
ディアスに2点適時打を許す。しかし3回から7回まで無失点に封じて被害を最小にとどめ、打線の援護で白星をつかんだ。
順調なスタートを切ると日本時代と変わらぬ落ち着いたピッチングで前半戦は12勝4敗、防御率2.51の好成績。選手間投票1位でオールスターに選出されたが、マウンドに登ることはなかった。7月8日のインディアンス(現ガーディアンズ)戦のあと、右ヒジに違和感を覚えた。検査の結果、右ヒジのじん帯に部分断裂が見つかった。トミー・ジョン手術を避け、自身の血液から抽出した多血小板血漿を注射する再生療法を選択した。
9月21日のブルージェイズ戦で2カ月半ぶりに復帰。5回1/3を1失点で13勝目を挙げた。9月27日のレッドソックス戦では1回2/3で7失点と大炎上。これがこの年最後の登板だった。前半は自身の力を発揮して大活躍。後半はリハビリに勤しみ、終盤に復活。13勝5敗、防御率2.77でメジャー生活のスタートを切った。
『週刊ベースボール』2022年5月9日号(4月27日発売)より
文=樋口浩一 写真=Getty Images