
ヤンキースに指名されてから9年目。マイナー暮らしが長かった左腕のコルテス。ヤンキースの先発ローテを守っているが、この地位までこられる選手は本当に一握りだ
2013年、ヤンキースはドラフトで42人の選手を指名した。そのうち31人と契約し、メジャーに上がれたのは7人である。
加藤豪将は7番目。2巡指名の期待の選手だったが、ヤンキースでは昇格できず、20年からは他球団のマイナーにいて、今年ようやくブルージェイズでメジャーに上がった。
4月27日にメジャー初安打。しかしながらその5日後、球団は加藤を3Aに落とし、2日後に戦力外とした。その3日後にメッツが獲得、3Aに送られた。非情な世界だとつくづく思うが、加藤はまだ40人枠内のため、再度の昇格を期待できる。
加藤と同じ13年組で、時間がかかったがようやくメジャーに定着し、大活躍を始めた選手がいる。36巡指名の左腕ネストル・コルテスだ。5月9日のレンジャーズ戦で先発、8回一死までノーヒットの好投で、チームに1対0の勝利をもたらした。今季は開幕からローテーション入り、6試合で防御率1.41である。
コルテスはヤンキース傘下のマイナー球団で実績を積みつつ、17年は3Aで好投。オフのルール5ドラフトでオリオールズに指名され、18年にオリオールズでメジャー・デビューを果たした。しかし4試合の防御率が7.71で40人枠から外され、ルール5の規定でヤンキースに戻り、マイナーに落ちた。
19年5月に昇格したものの、ロングリリーバーで防御率5.67。マリナーズにトレードされた20年は、わずか5試合の登板で解雇された。それでも諦めずに21年にヤンキースとマイナー契約。5月末に昇格し、ブルペンで防御率1.02と頑張り7月から先発に抜てき。14試合先発で防御率3.07と実績をあげ、今季の開幕先発ローテにつなげた。
コルテスは地元紙の取材に「キャリアの間に何度もノックダウンを食らった」と振り返っている。13年のヤンキースのドラフト組をあらためて調べて見ると、トップ指名は一巡26番目エリック・ジャガイロ三塁手だが、昇格できず、19年マーリンズのマイナーでプレーしたのが最後だった。
次が一巡32番目のアーロン・ジャッジでヤンキースの看板選手となった。一巡33番目のイアン・クラーキン投手も上がれなかった。ほかの昇格できた選手は4巡のタイラー・ウエイド二塁手、10巡のタイラー・ウェッブ投手、14巡のカレブ・
スミス投手、18巡のダスティン・ファウラー中堅手である。
上がったとはいえ、高給取りになったわけではない。7人の中でジャッジ以外に年俸が100万ドルを越えたのはスミスだけ。そのスミスも今季の200万ドルが最高額だ。つまり31人が契約し、マイナーでキャリアを終えた24人は大した年俸をもらっておらず、メジャーに上がった6人もメジャーの平均年俸417万ドル(約5億3680万円)にまったく届かない。
一方、メジャー6年間で約4000万ドル(約51億5000万円)のサラリーを得るジャッジが、春のキャンプ中にヤンキースと契約延長の話し合いで、7年2億1350万ドル(約275億円)の提示を拒否し、シーズン後にFA権を行使することにした。
同じドラフト組で、一人だけが破格の報酬を得る。あらめて、勝負の世界はものすごいなと再認識させられた次第だ。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images