読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者は高校時代に甲子園で名を馳せ、プロ野球でもヤクルトで活躍、さらに西武、ヤクルト、日本ハムでも指導者経験のある荒木大輔氏だ。 Q.高卒1年生で投手をしています。現在、球速は120キロ台後半で、さらにスピードを上げていきたいと思います。どのような練習が効果的でしょうか。(栃木県・匿名希望・15歳)

力強いストレートを投げる吉田だが、今季の平均球速は145キロだ
A.体幹の強さが大前提。球速を求めることも大事だが…… まずは大前提として体幹の強さが必要になります。ボールは腕だけで投げているのではありません。例えば
ロッテの
佐々木朗希投手が160キロ超えのストレートを投じることができるのも、体幹が強化されたからです。投球は下半身、体幹、上半身が連動することにより、ボールに力を伝達して完成する動作。特に下半身で生み出された力を上半身に伝える役割を担う体幹の強さは球速に大きく影響を及ぼします。それと同時に体のバランスを良くする必要もあるでしょう。極端な話、投手以外のすべてのポジションができるようになるバランスの良さ。それくらいの身のこなしがあればベスト。要は自分の体を自由自在に操れるようになることが大切なのです。
ただ、ある程度の球速は大事ですが、そればかりを追い求めてもいけません。どれだけ鍛えても球速の伸びに限界はあります。日本ハムの
吉田輝星投手も力強いストレートが武器ですが、体のサイズなどを考えると150キロを常時超えるのは難しい。今季の平均球速も約145キロほどです。ただ、吉田投手は打者を押し込むだけの伸びや強さを持ったストレートを投げることができる。それが150キロ台後半を投げることに取り組むと、フォームのバランスなどを崩してしまって、現在の力強いストレートを失ってしまうことにもなりかねません。
要は自分自身を知ることが重要になってくるのです。私は現役時代、フォーシームをどうしても投げることができませんでした。もともとヒザや腰など、いろいろな体の関節が硬かった。肩もしっかりと上からは回りません。高校(早実)時代から、そのことに気がついていました。ストレートはすべてツーシーム。右打者の外角に目掛けてもシュート回転してしまいます。だから、その軌道をどううまく使って打者を打ち取るかということだけを追い求めていました。

現役時代の荒木氏はシュート回転するストレートを生かすことを考えていた
打者の反応もよく見ていました。どういう反応をして、打ち損じしやすいボールはどのようなものなのか。あとは自分が打席に立ったときにだぶらせて、こんなボールは嫌だ、と。もちろん、捕手にも自分のボールの特徴を聞いて。打者が打ちづらいストレートとは何か――そればかりを考えていましたね。
指導者も投手の特徴を見極めることが大切です。例えば日本ハムの
上沢直之投手は「フライ投手」。ストレートの回転数が多くて、高めのストレートで相手にフライを打たせて打ち取っていくタイプ。それが、高めは長打の危険があるから低めに投げろと言ったら、ピッチングがおかしくなってしまう。もしかしたら、ひと昔前だったら、そのような指導がされたかもしれません。
とにかく、ストレートの球速を求めるだけではなく、自分の特徴を把握することも大事になってくるのです。
●荒木大輔(あらき・だいすけ)
1964年5月6日生まれ。東京都出身。早実から83年ドラフト1位でヤクルト入団。96年に横浜に移籍し、同年限りで引退。現役生活14年の通算成績は180試合登板、39勝49敗2セーブ、359奪三振、防御率4.80
『週刊ベースボール』2022年7月11日号(6月29日発売)より
写真=BBM