読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は打撃編。回答者は現役時代、勝負強いバッティングで球場を沸かせた、元巨人の岡崎郁氏だ。 Q.足を上げて打つ選手もいれば、上げずに打つ選手もいます。子どもたちにどう指導すればよいですか。(大阪府・匿名希望)

なぜ足を上げるのか。その意味をしっかり理解して打席に立つことが重要だ[写真は阪神・大山悠輔]
A.子どもは体が十分に発達していません。体を大きく使って打たせてあげましょう まず、なぜ足を上げて打つのかですが、それは「タイミングを取ること」「体重移動をすること」「ひねりを加えること」。大きくこの3つが理由に挙げられます。
足を上げることによってリズムが生まれタイミングが取りやすくなりますし、体重移動で後ろ足に体重を乗せるとパワーをためることができる。ひねりを加えることもまた同様にパワーをためることにつながり、打球が飛びやすくなります。しかし、足を大きく上げればその分、目線がぶれやすくなったり、投手がタイミングを外しやすくなるといったデメリットも挙げられます。
対して、その足を上げた場合のデメリットを解消できるのが、動きの小さなすり足打法やノーステップ打法です。メジャー・リーグで活躍している
大谷翔平選手(エンゼルス)や
鈴木誠也選手(カブス)などがまさにそうです。
しかし、この足を上げない打ち方は体を大きく使わないため、体幹の力を生かすことが求められます。大谷選手や鈴木選手は鍛えられた筋力、体幹の力がありますから、この打ち方でも強い打球を遠くに飛ばすことができるのです。
質問者の方は小さい子どもに指導をされていますが、私がその立場であれば「体を大きく使って打とう」と伝えます。すり足で打つのはまだまだ先の話です。
まずは体を大きく使って打球を飛ばすことを覚えさせる。そして高校、大学とレベルが上がるにつれて徐々に動きを小さくしていくほうが良いと思います。少年野球のころからムダのない細かい動きを覚えさせて、そこから動きを大きくしていくのは難しいです。大きいものを少しずつ削って理想の状態へと極めていく、これが王道だと思います。
子どもは体重も軽いですし、筋力も発達していませんから、そう簡単には小さな動きで遠くへ飛ばすことはできません。プロ野球の世界でいえば、無駄な動きかもしれませんが、その年齢、体力に応じた打ち方で打つのがよいと思います。
また、打撃を指導するにあたって気を付けてほしいことがあります。それは教えられないこともあるということです。打撃は感覚によるものが多く、特に手の動きはあまり口を出し過ぎてはいけません。上半身は脳に近い位置にありますし、手は特に敏感。教え過ぎると選手もどうしていいか分からなくなり、投手と同じようにイップスになってしまいます。あくまで基本的な動作だけにして、それ以外の指導は控えるのがよいでしょう。
頭から遠い下半身の動きについては積極的に指導をしてもいいと思います。最初に伝えた「タイミングを取ること」「体重移動をすること」「ひねりを加えること」は下半身の動きです。もし、「手でタイミングをとったほうが打ちやすい」という選手がいれば、その感覚を尊重して見守ってあげてください。
●岡崎郁(おかざき・かおる)
1961年6月7日生まれ。大分県出身。右投左打。大分商高から80年ドラフト3位で巨人に入団し内野手としてプレー。96年限りで引退。現役生活16年の通算成績は1156試合出場、打率.260、63本塁打、384打点、23盗塁
『週刊ベースボール』2022年8月15日号(8月3日発売)より
写真=BBM