読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回はバント編。回答者は歴代2位の451犠打を誇る元西武ほかの平野謙氏だ。 Q.バントはどこに転がすと成功率が高くなるのでしょうか。平野さんはどういうバントが得意でしたか。(山梨県・サエキ・14歳)

現役時代の平野氏のバント
A.どう当てたら転がるか。練習でいろいろやって、その中で自分自身で考えてください 相手内野手の出方、スローイングの技術など、いろいろな要素がありますが、やはり一塁側、三塁側のラインに近いところが成功率は高くなると思います。ただ、だからと言ってラインぎりぎりを狙うとファウルもあります。コースは大体でいいと考え、むしろ「打球を殺す」意識を持ったほうがいいと思います。
私はスイッチヒッターでしたが、右打席なら一塁側、三塁側とも特に苦にした記憶はありません。あえて言うならセーフティーバントをする際の左打席の三塁側でしょうね。バットはあくまで地面に平行が基本ですが、走ることを意識し、多少、体と離れてしまうことがあり、ヘッドが下がったり立ったりし、強い当たりが投手前にいったり、ファウルになって顔近くに飛んできたこともあります。ただ、このときも転がすコースが甘くなっても打球を殺していれば大丈夫と思えば、それほど慌てることはありません。
送りバントで相手のチャージが厳しい場合、どこに転がしても走者を進められないと感じることもあるでしょう。そのときの隠し技がプッシュバントです。言葉どおり“押す”バントですね。右打席ではセカンド、左打席ではショートの守備位置を見てですが、バントで一塁手、三塁手がチャージを掛けたとき、右ならセカンド、左ならショートに捕らせるような打球を返す。走者一塁であればセカンドは一塁、ショートは二塁へベースカバーに入るので、その動きの逆をつくような当たりだと、自分もセーフになる可能性もあります。
やり方としては、右バッターなら左足を前にして構えるわけですが、手で押そうとすると、どうしても目線がずれて失敗の可能性が高くなるので、体全体でボールをセカンドの前に持っていくようなイメージでやってみてください。
一口でバントと言っても転がす方向、勢いなどいろいろなバリエーションがありますが、一番大事なのは「こう当てたらこう転がる」というのを自分の中でつかんでおくことです。そのためには練習ですね。練習でいろいろやってみて、その中で自分自身で考えてください。こういう当たり方をしたら、こういうゴロになるとか、こういう構えをしたらストライクゾーンはどう見えるかなどと確認しながらやってみましょう。
さらに言えば、バントはマシンがあればいくらでも練習できますから、数をこなし、試合では惰性でできるくらいにしておけば完璧です。これはバントに限りませんが、ゲームのプレッシャーの中では練習でたまにできたくらいのものだと難しかったりしますからね。
バントの練習はどうしても単調に感じてしまいがちなので、ゲーム的な要素を入れるのもいいでしょう。よくやるのが地面に円を描いてその中に入れるものです。3人くらいいたら、いくつ入れられるか競争し、ジュースやコーヒーを賞品にしてもいいかもしれませんね。
●平野謙(ひらの・けん)
1955年6月20日生まれ。愛知県出身。犬山高から名商大を経て78年ドラフト外で
中日入団。88年に西武、94年に
ロッテに移籍し、96年現役引退。現役生活19年の通算成績は1683試合出場、打率.273、53本塁打、479打点、230盗塁。
『週刊ベースボール』2022年9月12日号(8月31日発売)より
写真=BBM