育成契約から這い上がって

貴重な先発左腕だったメルセデス。今季は5勝に終わった
12月2日に公示された
巨人の保留選手名簿からC.C.メルセデスが外れた。
先発ローテーションで数少ない貴重な左腕だった。メルセデスは苦労人だっただけに、思い入れが強いファンも少なくないだろう。メジャー経験がなく、22歳の2016年に母国・ドミニカ共和国でカープアカデミーに所属していた。1年後に契約更新されず、巨人の海外トライアウトで目に留まり入団。育成契約で当時の注目度は高くなかった。
野球人生の転機となったのが18年。ファームで好投を続けると、7月8日に契約金550万円、推定年俸550万円で支配下選手契約を結ぶ。来日デビュー登板となった同月10日の
ヤクルト戦(神宮)で先発し、5回5安打無失点でプロ初勝利を飾ると、同月18日の
阪神戦(甲子園)で7回無失点と首脳陣の期待に応えて2勝目をマーク。デビューから2試合連続無失点勝利は球団史上初の快挙だった。
野球評論家の
川口和久氏は週刊ベースボールのコラムで、「メルセデスは右打者のアウトコースのコントロールもすごくいいから右打者をまったく苦にしない。体の使い方も柔らかいね。外国人投手はアメリカの硬いマウンドもあって、踏み出した足を突っ張るタイプが多いけど、メルセデスはヒザを柔らかく使って、球を前で離せている。打者が差し込まれる理にかなったフォームだね。最初からそうだったのか、巨人に来て二軍で身につけたのかは知らないけど、日本向きの投手だと思う」と高く評価していた。
19年は開幕先発ローテーション入りし、自己最多の8勝で5年ぶりのリーグ優勝に貢献。20年以降は4勝、7勝、5勝。いずれも防御率3点台だが、規定投球回数には一度も到達していない。メルセデスの課題は試合中盤を投げ切れないことだった。5、6回になると球のキレを失い崩れる登板が目立つようになる。今季は20試合登板で5勝7敗、防御率3.18。6月4日の
ロッテ戦(東京ドーム)で5勝目を挙げたが、その後は11試合登板して1つも白星を積み重ね上げられず6連敗。ナインと良好な関係を築き、チームに溶け込んでいたが、助っ人としては物足りない数字だった。
制球力が良く、能力は高い
力のある投手であることは間違いない。他球団の編成担当は「メルセデスは制球力が良いし、能力は高いですよ。スタミナがないとは感じない。6、7回をきっちり投げている登板を見てきましたから。外国人投手はメジャーで実績があっても日本の野球に適応できるかリスクがあるが、メルセデスはNPBで十分に通用している。今季の推定年俸5200万円も決して高いとは感じない。獲得に乗り出す球団があっても不思議ではありません」と語る。
NPBの他球団に移籍して、素質を開花させた助っ人投手は過去にもいた。制球力とテンポの良さに定評があった
ディッキー・ゴンザレスは04年のシーズン途中にヤクルトに入団。右ヒジを手術するなど在籍5年間で計18勝だったが、巨人に移籍初年度の09年にチェンジアップを習得すると、投球の幅が広がり先発ローテーションの中心的存在に。15勝2敗、防御率2.11の好成績でリーグ優勝、日本一に貢献した。
ゴンザレスのように環境が変わることで、覚醒する投手もいる。ジャパニーズドリームを目指すメルセデスは来年もNPBでプレーするか。その動向が注目される。
写真=BBM