起用法の幅が広い投手

昨年は巨人で1試合の登板に終わり、オフに戦力外通告を受けた山口
チームの戦力構想から外れ、NPBで現役続行を目指していた選手たちが、次々に「第2の道」へ進む決断を下している。
日本ハムを退団した
金子千尋はコーチの打診を一度は断り、他球団で現役続行を望んだが、昨年12月23日に引退会見を行い、日本ハムの特命コーチに就任して今年はアメリカに留学することを発表した。元
中日の
平田良介も他球団での現役続行を模索していたが断念。大阪を拠点に活動するエースファクトリーベースボールクラブに入団し、軟式野球に転向する。1月下旬に配信されたYouTubeチャンネル「エースファクトリーエンタメチャンネル」に出演し、「全大会で全国優勝していきます」と力強く誓った。
その中で現役続行の道をあきらめず、孤独なトレーニングを続けている選手がいる。巨人の
山口俊だ。
先発、抑え、セットアッパーと起用法の幅が広い投手だ。昨年は開幕二軍スタートだったが、4月上旬に一軍昇格。8日の
ヤクルト戦(東京ドーム)に救援登板して2回無失点に抑えた。2四球を出して40球を費やしたが4奪三振。上々のマウンドに見えたが、10日後に登録抹消される。早期の一軍復帰を目指したが、5月26日のイースタン・日本ハム戦(鎌ヶ谷)では左膝を痛めて負傷交代。6月下旬に実戦復帰を果たしたが、一軍からお呼びがかかることはなかった。わずか1試合の登板に終わり、若返りを図る今年のチーム構想から外れた。
スポーツ紙記者は、「真っすぐに全盛期の威力はないが、山口は何年も前から変化球主体の投球スタイルにシフトしている。先発、救援と役割を与えればまだまだ通用すると思います。チームに悪影響を与える選手ではないし、獲得に乗り出す球団があっても良いと思いますが……。救援に150キロを超える速球派投手をそろえるのがトレンドになっているので、その影響があるかもしれません」と分析する。
19年優勝の立役者
DeNAでは前身の横浜から守護神、先発で活躍。16年オフに巨人へFA移籍し、最も輝いたのが19年だった。26試合登板で15勝4敗、防御率2.91の好成績を収め、最多勝、最高勝率(.789)、最多奪三振(188)のタイトルを獲得。絶対的エース・
菅野智之が度重なる腰痛の影響で11勝6敗、防御率3.89と本来の投球ができなかっただけに、5年ぶりのリーグ優勝は山口の活躍なしには成し得られなかった。
この年のセ・リーグMVPは
坂本勇人だった。全143試合出場で打率.312、40本塁打、92打点をマーク。遊撃手の40本塁打は1985年の
宇野勝(中日)以来、史上2人目の快挙だった。
球団OBも絶賛の投球
球団OBの
堀内恒夫氏はMVP発表前に週刊ベースボールのコラムで、こう綴っている。
「遊撃手で40ホーマーは素晴らしい。優勝したチームを攻守で引っ張った功績は大きい。(MVPに)順当に選ばれるかもしれない。だが、投手出身の私としては、そのままうなずくわけにはいかない。心情的に山口に獲らせてやりたい気持ちもあるのだ。私が座長を務めている沢村賞こそ獲れなかったが、15勝4敗という数字は立派だ。エースの菅野智之がシーズン終盤にリタイアするチームの危機も、先発ローテーションを守り抜くことで救った。『山口をもっと評価してやってほしい』と声を上げたいくらいだ。まあ、坂本になるにしろ、山口になるにしろ、ひさびさにわが古巣から選ばれることになれば喜ばしいことだ」
山口は残念ながらMVP獲得が叶わなかったが、巨人の救世主であることは間違いなかった。
あれから3年の月日が流れ、メジャー挑戦を経て復帰した巨人のユニフォームを脱ぐことになった。NPB通算443試合登板で66勝66敗112セーブ25ホールド、防御率3.36。他球団のユニフォームを着て、再びマウンドに立つチャンスは巡ってくるか。
写真=BBM