令和でも説く「御大」の教え
リーグ戦初先発の2年生・今井[左]が4安打4打点。6回表には初本塁打を放った。写真右は6回2失点で勝利投手のエース・村田賢一[4年・春日部共栄高]
朝5時30分。明大野球部の活動拠点である「内海・島岡ボールパーク」の1日は、体操から始まる。リーグ戦開催日は、内海弘蔵初代部長、島岡吉郎元監督の胸像を参拝する。
偉大な先人に対して深々と頭を下げた後は、
上田希由翔主将(4年・愛産大三河高)の音頭による校歌を、全員で歌う。掃除、朝食を済ませた後に、神宮球場へ向けて出発する。
5月13日も同じリズムで動いた。野球以前の規則正しい生活が根本としてあるのが、明大の伝統だ。
明大は今春、開幕から東大、慶大、法大と3カード連続で勝ち点3を挙げ、6勝1敗1分で首位に立っていた。
第6週の早大戦。明大は2連勝すれば、東京六大学リーグ3連覇を達成する星勘定である。
明大の主将で四番・上田は早大1回戦で3ランを含む4打点。背番号10の存在感を示した。チームは15対4で快勝し、リーグ3連覇に王手をかけた
2020年春から母校を指揮する田中武宏監督は、校歌を歌った後「分かっているだろうが」と前置きした上で、全部員の前で訓示した。
「(島岡)御大は早稲田と慶応に対して、異常なまでの執念を燃やしていた。この春、慶応からは、勝ち点を取ることができた。今度は早稲田から勝ち点を奪う。東京六大学は対抗戦。そのことだけに集中すること」
大学4年間、島岡元監督から直接指導を受けた田中監督は、令和の時代になっても「御大」の教えを説く。絶対に譲れないポリシー。学生たちは、指揮官から毎回のように指導を受けるから「対抗戦意識」がこびりついている。
部員たちも早大とのカードを前にすると、赤色(早大のスクールカラーはエンジ)の服を着るのも極力、避けるという。こうした「戦闘モード」で、神宮に乗り込んできた。
激化するチーム内競争
この日の明大サイドは付属校の動員があり、応援席には収まらず、第二内野席も学生で埋まった
早大1回戦(5月13日)。明大は雨中の厳しいコンディションながら、4本塁打を含む17安打15得点で快勝した(15対4)。この日は明大中野高から380人、明大明治中・高の全校応援1300人の動員もあり、通常の応援席だけでなく、第二内野席にも観衆が入った。猛烈な後押しも、明大ナインを活気づけた。
この日はリーグ戦初先発の2年生・今井英寿(松商学園高)が、初ものづくしの大活躍を見せた。初安打、初本塁打を含む4安打4打点と強烈なインパクトを残した。「いつ言われても良いように、前の週から準備してきました。驚くこともなく『やってやるぞ!』という気持ちでした」。控え選手も頼もしい。田中監督は毎試合、25人の登録選手を決めるのを苦慮するほど、チーム内競争が激化している。
「今入っている選手も、ほぼほぼ明日、どうなるか分からない。新チーム結成時からずっと続いていること。投手でも一度、失敗すれば、次にいつチャンスがめぐってくるか分からない。ウチはそういった状況です。もっと(頭を)悩ませてほしいです」(田中監督)
リーグ3連覇へ王手である。しかし、田中監督は「勝ち点奪取です」と、試合後に表情を緩めることは一切なかった。対戦5校すべてから2勝(勝ち点)を挙げるのが、目的であるからだ。「早稲田と慶應には負けるな。それが明治の使命」。あくまでも、島岡御大の意思を貫く。相当なライバル意識は、創部1910年の明大よりも、歴史がある慶大(1888年)と早大(1901年)を最大限にリスペクトするからこそ。翌日も普段と変わらず、朝の体操から1日がスタート。田中監督は目を細める。
「キャプテン・上田が校歌の冒頭で発声する『オオ、明治♪』が、昨年11月の新チーム結成時に比べると、声のトーンが一つ上がっているんです。変な恥ずかしさがなくなったのか……。頼もしくなってきましたねえ(笑)」
一日の計は朝にあり。明大は大一番を控えても平常心。落ち着いた日常生活を送っており、試合においても、心が揺れることはない。
文=岡本朋祐 写真=矢野寿明