初の全国舞台で抜群の出来

青学大・常廣は明大との大学選手権決勝で完封。18年ぶり5度目の日本一へと導いた
青学大・
常廣羽也斗(4年・大分舞鶴高)は「ドラフト1位」の立場を、完全に確立したと言っていい。
17年ぶりに出場した全日本大学選手権で18年ぶりの優勝。中部学院大との準々決勝で先発して6回無失点に抑えると、明大との決勝(6月11日)では10奪三振で完封勝利(4対0)。15イニング無失点(防御率0.00)で、最高殊勲選手賞と最優秀投手賞を受賞した。
153キロ右腕の良さは、何か。決勝には複数球団のNPBスカウトが視察。青学大OBの
高山健一スカウトは試合前から高揚していた。
「上位候補。即戦力と言えるでしょう。あとは大舞台で、どれだけの力を発揮できるか。今日の決勝は、試金石となるゲームです」
大分県屈指の進学校・大分舞鶴高出身。高校3年夏は県大会2回戦敗退と、目立った実績はない。東都大学リーグ戦では3年秋から先発の一角を担い、今春は2006年春以来の東都リーグ制覇に貢献。初の全国舞台となった全日本大学選手権で、期待どおりの投球を見せた。
「ストレートが打者の手元で変化する。フォークは真っすぐと同じ軌道でくるから、空振りが取れる」
青学大の先輩は、目を細めた。
終盤まで衰えない球威
中日・
正津英志スカウトは春季リーグ戦からの進化をこう明かす。
「リーグ戦は強弱でした。弱になると、腕が緩んでいた。いざ、力を入れると、高めに抜ける。今大会は目いっぱい。これだと、打たれない。球筋、力が一定になるからです。変化球も腕が振れていました。ストレートは低めが伸びて、(ボールゾーンから)ストライクゾーンに入ってくる。昨秋は常時、きていました。ここに来て、調子が上がってきている」
常廣はプロへのアピールについてこう語る。
「あまり、評価がどうかとかは、考えていないです。自分で納得のいくボールを投げて、評価されたらいいです」
明大との決勝は最速151キロ。終盤まで球威は衰えず、9回にも149キロを計測していた。フォーク、スライダー、チェンジアップ、カーブと変化球も精度は抜群だった。
正津スカウトは絶賛する。
「この投球をされると、攻略は難しい。(2023年候補選手で)ものが一番良い。ポテンシャルは、どこの球団も評価しているはずです」
まだ伸びシロは十分
あるベテランスカウトは、常廣と
楽天・
岸孝之の東北学院大時代を重ね合わせていた。確かに似ている。細身(180センチ73キロ)ながら、フォームにはムダな動きがなく、全身がバネのような、身体能力の高さを見せる。
常廣は「日本一」という、大学生として最高のキャリアを手にした。大会前の「1位候補」から「1位競合」へとステップアップする場となったはず。常廣には、反骨心が原動力としてある。「部員が少ないのでチャンスがある」と、指定校推薦で青学大に入学。社会人の名門・東芝でもコーチ実績がある中野真博コーチの下で、一つひとつ課題をつぶしてきた。
「スポーツ推薦組には負けなくない。ずっと、その思いで練習してきました」
まだ伸びシロがある。6月17日から、大学日本代表候補合宿(平塚)に参加する。初の侍ジャパン入りへの挑戦になるが、常廣は「しっかりまた、投げたい」と淡々と語る。この無欲さが、逆に心の強さを感じるのである。
文=岡本朋祐 写真=川口洋邦