移籍後、安打を量産

本塁打を放った宇佐見をベンチで出迎える立浪監督
トレードは選手の野球人生を大きく変える。
日本ハムから
中日へシーズン途中にトレード移籍し、攻守で早くも不可欠な存在になっているのが
宇佐見真吾だ。
斎藤綱記と共に、中日の
郡司裕也、
山本拓実と2対2の交換トレードが両球団から発表されたのが6月19日。正捕手の
木下拓哉が「大菱形骨骨折」で戦線離脱する緊急事態に、捕手強化で白羽の矢を立てたのが宇佐見だった。
「強打の捕手」として定評がある宇佐見は、
新庄剛志監督が就任した昨年に自己最多の81試合に出場し、打率.256、5本塁打、24打点をマーク。チーム最多の先発マスクをかぶったが、昨オフに
伏見寅威が
オリックスからFA移籍し、元中日の
アリエル・マルティネスも加入したことで状況が変わった。開幕スタメンをかぶったが9試合で15打数無安打と結果を残せず、4月19日に登録抹消。その後は一軍に再昇格ならず、ファーム暮らしが続いていた。
プロ生活で3球団目となる中日に必要とされたことは、野球人冥利に尽きるだろう。移籍後初スタメンとなった6月29日の
阪神戦(甲子園)で猛打賞をマークすると、その後も安打を量産して一時は4割を超えるハイアベレージをキープ。今月13日の
ヤクルト戦(神宮)で同点の6回に
小澤怜史の内角のフォークをすくい上げると、打球は右翼スタンド中段へ。決勝弾となる移籍後初アーチで勝利に導いた。移籍後22試合出場で打率.390、1本塁打、5打点と申し分ない活躍だ。
評論家時代から高評価

中日でシュアなバッティングを披露している宇佐見
立浪和義監督は野球評論家のときから、宇佐見の打撃を高く評価していた。
巨人に在籍していた2017年9月5日の中日戦(長野)で9回に同点アーチを放った一打について、週刊ベースボールのコラムで以下のように綴っている。
「あのとき、彼の勝負強さもそうですが、技術に驚きました。
田島慎二選手の内角低めのフォークでワンバウンドになりそうな球を打った神業のようなホームランです。もちろん、見逃せばボールですから、選球眼という点には課題があるとも言えますが、宇佐見選手は、あの球を打つだけのしっかりした技術的な裏付けを持った選手でもあります。簡単にいえば『壁』を作れているということです。左打者の彼は右のヒザと右のワキ腹でしっかり壁を作ることができています。壁が作れないと体の開きが早くなりますから、そのまま体が前に行ってしまい、ああいう低めの球は空振りか、せいぜいボテボテのゴロ。力の入った打球は絶対に打ち返せません」
「宇佐見選手は壁を作った上で、あの難しい球に対し、しっかりヘッドを走らせている。軸を作り、表現が抽象的かもしれませんが、四角い消しゴムをひねって、戻るような体の使い方もできています。要はスイングの際、軸がぶれないということです。見ていると、センターへの意識を持ちつつ、引っ張る技術も持っていますし、これからが非常に楽しみなバッターですね」
選手の能力を見抜く力
6年の月日を経て、同じユニフォームを着てプレーするのも運命だったのかもしれない。スポーツ紙記者は、「トレードはフロント、現場で意見をすり合わせて選手の獲得に動きますが、立浪監督は選手の能力を分析する目利きがある。現役ドラフトで
DeNAから移籍した
細川成也は春季キャンプから素質を見出して実戦で積極的に起用していましたし、
岡林勇希、
高橋宏斗、
清水達也も主力として活躍している。最下位に低迷していますが、立浪監督の下で素質を開花させている若手が多い点は評価されるべきだと思います」と指摘する。
宇佐見が攻守にわたる活躍を連日見せていることで、木下もウカウカできない。この危機感がハイレベルなレギュラー争いにつながる。後半戦は白星を積み上げ、「台風の目」になれるか。
写真=BBM