卓越した野球センス

バンテリンドームで行われた9月15日の中日戦では今季20号本塁打を放った坂本
巨人・
坂本勇人に野球人生の岐路が訪れた。守り慣れた遊撃から三塁へのコンバート。今後の野球人生を考えたら、プラスアルファは大きいだろう。
卓越した野球センスを見せたのが、9月7日の
ヤクルト戦(神宮)だった。プロ17年目で初となる三塁でスタメン出場。4回二死二塁の場面で、
ドミンゴ・サンタナが放った三塁線への鋭い打球に素早く反応すると、スライディングしながら逆シングルで好捕。ワンバウンド送球でアウトにした。球場はどよめきの後に大きな拍手が。坂本は笑みを浮かべていた。打撃でも1点リードの9回に17号左越え2ランで勝負を決めた。
プロ野球史上最強のショート
巨人の遊撃イ
コール坂本だった。2008年に全試合出場で遊撃のレギュラーをつかむと、10年から5年連続全試合出場と球界を代表する遊撃に。20年には右打者で史上最年少となる31歳10カ月で通算2000安打を達成した。球団OBで野球評論家の
堀内恒夫氏は今年6月、週刊ベースボールのコラムで坂本を以下のように評している。
「日本プロ野球史上最強のショートストップと言えば、巨人・坂本勇人であることは間違いないだろう。もちろん、賛否両論あることは俺も十分承知している。でも、5月31日にZOZOマリンスタジアムで行われた
ロッテとの交流戦で、坂本はショートとしてはプロ野球史上初の通算2000試合出場を記録した。ただ単に2000試合の『大台』へ到達したわけではない。この試合で坂本は5回に今季7号となるソロ本塁打を放った。この一打によって、勢いづいた巨人は7対4でシーソーゲームを制した。まさに『打てるショート』の面目躍如だった。この日の本塁打は、坂本にとって通算2243安打だったから、『ショートは打てなくても守ることができればよい』というプロ野球の常識を見事に覆してくれたわけだよ」
「二岡(智宏、現巨人二軍監督)を蹴落としてポジションを獲得した坂本を最初に見て、俺がまず感じたのは「歴代巨人のショートの中でも、スローイングの力強さとコントロールの良さは廣岡さんに匹敵するだろうな」ということ。さらに廣岡さんと坂本に共通するのは、打球を捕ってから送球するまでの一連の動きにまったく無駄がないということだ」
「三塁コンバート」は最適解

サードの守備も無難にこなしている
技術に衰えは見られない坂本だが、近年は故障で離脱するアクシデントが増えていた。昨年は左内腹斜筋の筋損傷、右膝内側側副靱帯の損傷、腰痛と3度戦列を離れ、83試合の出場にとどまった。今季も6月下旬に右太もも裏の肉離れで1カ月以上離脱。坂本を欠いたチームは上昇気流に乗れず、優勝争いから脱落した。
遊撃は体に掛かる負担が大きい。「三塁コンバート」という
原辰徳監督の決断は、故障のリスクを下げて坂本の力を最大限に発揮するための最適解といえる。
コンバートは新たな輝きを放つチャンスでもある。ヤクルトの名遊撃手として活躍し、ゴールデン・グラブ賞を6度獲得した
宮本慎也氏は37歳の08年シーズン途中に三塁へコンバートされ、翌09年から4年連続でゴールデン・グラブ賞を受賞。打撃でも11年に打率.302をマークするなど三塁転向後に630安打を積み上げ、12年に通算2000安打を達成した。
坂本は現在、通算2309安打を積み上げている。スポーツ紙記者は、「34歳とベテランの域に入ったが、コンディションが整えば三塁で5年はレギュラーを張れる。3000安打も十分に狙える数字だと思います」と期待を込める。
イチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が日米通算4367安打をマークしているが、NPB単独では
張本勲氏がトップで3085安打を記録している。坂本が新たなポジションでこの大記録を塗り替えられるか。
写真=BBM