フォア・ザ・チームのプレースタイル

日本シリーズでも印象的な一打を放つ大山
阪神不動の四番として活躍した
大山悠輔は、
オリックスと激突した日本シリーズでも頼もしい活躍ぶりを見せた。
第4戦は同点の9回裏一死満塁で、フルカウントから相手右腕・
ワゲスパックの148キロ直球を三遊間にはじき返すサヨナラ打で勝負を決めた。第5戦では8回に
森下翔太の2点適時三塁打で逆転した直後に、
宇田川優希の140キロフォークをすくいあげて技ありの中前適時打。貴重な追加点で突き放した。
プロ2年目の2018年からレギュラーに定着し、20年には自己最多の28本塁打をマーク。今季から就任した
岡田彰布監督の方針で「四番・一塁」で固定された今季は進化した姿を見せた。豪快なアーチを放つだけが四番の仕事ではない。打撃不振のときは走者を次に進める打撃を見せて、いかなるときも全力疾走を怠らなかった。全143試合出場で打率.288、19本塁打、78打点をマーク。この数字だけでは大山の本質は見えてこない。フォア・ザ・チームの打撃に徹し、99四球、8犠飛はいずれもリーグ最多。最高出塁率(.403)のタイトルを獲得した。
普段は喜怒哀楽を出さないプレースタイルだが、阪神の四番を背負う重圧は計り知れない。18年ぶりのリーグ優勝を決めた9月14日の
巨人戦(甲子園)では先制点の犠飛を放ったが、勝利の瞬間に喜びを爆発させるナインの中、人目をはばからず大粒の涙を流した姿が印象的だった。
ドラフトで単独1位指名されて
大山は阪神にドラフト1位で入団している。ただ、心の底から喜べる状況ではなかった。今から7年前の16年10月20日。このとき、ドラフトの目玉として注目度が高かったのが
田中正義(現
日本ハム)、
柳裕也(現
中日)、
佐々木千隼(現
ロッテ)の大学生投手3人だった。田中には5球団が競合し、柳には2球団が競合。阪神は大山を単独指名した。ドラフト会場に詰めかけた来場客からため息の声が。佐々木が指名されていなかったため、阪神が指名すれば獲得できていたからだ。佐々木は外れ1位で史上最多の5球団が競合し、ロッテに入団した。
阪神は佐々木を指名すると予想したメディアが多い中、大山の指名を決断したのは当時の
金本知憲元監督の強い意向だった。白鴎大では4年春にリーグ新記録の8本塁打をマークし、大学ジャパンの四番も務めた。豪快なスイングにプロでも通用する長距離砲に育てられると確信したのだろう。ただ、ネット上では「佐々木千隼を指名するべきだった」、「大山は2位以降でも獲れた」など手厳しい声が。大山は複雑な胸中だっただろう。
「阪神ファンの期待に応えられればうれしい」
ドラフト後に白鴎大の同学年で
西武から2位指名を受けた
中塚駿太と週刊ベースボールで対談。中塚が「ドラフト当日、大山の名前が阪神のドラフト1位で呼ばれて、本当に驚いた。周囲もびっくりしていたけど……。本人が一番驚いたんじゃないかな」と語ると、大山は「何が起こったのか分からなかった。頭が真っ白になったし、時間が止まって、現実ではないような感覚。周囲を見て、『自分なんだ』とわれに返ったよ」と明かしている。
内に秘めた思いは熱い。
「同世代に負けたくない気持ちはもちろんある。日本ハムの大谷(
大谷翔平)や阪神の藤浪(
藤浪晋太郎)と高卒でプロに入って、多くの経験を積んで結果を残している選手はいるけど、彼らに追いつき、追い越したい気持ちはずっとある」と思いを口にした上で、「阪神ファンはすごく熱いという印象。甲子園の試合も、常に大観衆だからね。そんな方々に応援してもらうのは、非常にうれしいこと。その期待に応えられればいいなということは常に思っている」と言葉に力を込めていた。
あれから7年――。あのドラフト1位指名が大成功だったことを、自らの力で証明した。
写真=BBM