明言されていないレギュラー

強打の捕手として今季は134試合に出場した大城
3年連続V逸となった
巨人は
阿部慎之助新監督が就任。レギュラーと競争するポジションを明確に分けている。
定位置が確定しているのは一塁・
岡本和真、三塁・
坂本勇人、遊撃・
門脇誠の3人のみ。二塁でレギュラー格の
吉川尚輝、外野で実績十分の
丸佳浩、今季頭角を現した
秋広優人はポジションを保証されているわけではない。そして、着実に実績を積み重ねているこの男もレギュラーを明言されていない。「強打の捕手」として知られる
大城卓三だ。
今季自己最多の134試合に出場し、打率.281、16本塁打、55打点をマーク。豪快なスイングが魅力だが、小技をきっちりこなす。21犠打はリーグトップタイだ。守備でもリーグ2位の盗塁阻止率.373をマーク。侍ジャパンでも「三番手捕手」として、3月のWBC世界一に貢献した。
残している数字は申し分ない。だが、大城に満足感はないだろう。正捕手の座をつかんだ2021年は3位、昨年、今年は2年連続Bクラスとチームが低迷している。「グラウンドの司令塔」と評される捕手は、チームを勝利に導いて評価される。近年は優勝争いに絡めていない。投手が勝負所で手痛い一打を浴びると、大城のリード面がやり玉にあがることも。
自己満足感を支えに
球界を代表する名捕手として活躍し、監督としても評価が高い
野村克也氏は捕手というポジションについて、生前に週刊ベースボールのコラムで以下のように綴っている。
「キャッチャーとは、『ファインプレーのないポジション』。だから、余計難しい。今でこそキャッチャーにも少しは目が向けられるようになったが、先発ピッチャーが完投、完封すれば、ヒーローはピッチャーただ一人。私は現役時代、それにどれだけ腹を立てていたことか。ピッチャーのヒーローインタビューを横目に、『何ぬかしとるんや、サインを出したのは俺やないか』と心の中で愚痴ってばかりいた。なんとも情けない商売だ。キャッチャーにボヤキ型の人間が多いのは、これほどまでに目立たない商売だからだろう」
「正直、『あれは俺のファインプレーだろう』と思うこともある。だが、思っていても絶対口に出しては言えない。『うぬぼれるな』と鼻で笑われて、終わりだからだ。夏場の試合など、1試合で体重が2kgも落ちてしまう。ピッチャーをリードし、グラウンドで監督の代わりを務めたという自己満足を支えに、日々ホームベースの後ろに座る。それがキャッチャー=女房役。手柄は旦那(ピッチャー)にゆだねてやればいい、ということだ」
勝利に導くことで評価
捕手は特殊なポジションだ。今年38年ぶりの日本一に大きく貢献した
阪神・
坂本誠志郎のように、チームを勝利に導いてスポットライトが当たる。
大城は順調にいけば来季中に国内FA権を取得する。他球団の首脳陣は「攻守で間違いなく球界トップクラスの捕手。巨人が当然高く評価していると思いますけど、FA権を行使したら争奪戦の目玉になるでしょう」と語る。
阿部監督は、大城の心情を誰よりも理解しているだろう。現役時代に「強打の捕手」として活躍し、10年に自己最多の44本塁打をマーク。12年に打率.340、27本塁打、104打点で首位打者、打点王、最高出塁率(.429)を獲得。通算2132安打を積み上げた。順風満帆の野球人生だったわけではない。若手の時はリード面で批判されることがあったが、8度のリーグ優勝、3度の日本一とチームを勝利に導くことで評価を一変させた。
マイペースと評される大城だが、内に秘めた闘志は熱い。来季は誰もが認める不動の正捕手として、V奪回を目指す。
写真=BBM