独特のポジションの第2捕手

今季でプロ11年目を迎えた小林。守備能力の高さには定評がある
まだ終わった選手ではない――。V奪回を目指す
小林誠司が「第2捕手」として、開幕一軍メンバー入りする可能性が高くなった。
2016年から4年連続リーグトップの盗塁阻止率を記録し、17年のWBCでは侍ジャパンの正捕手を務めたが、
大城卓三の台頭と共に近年は出場機会が減少。20年以降は4年連続で打率2割に満たず、昨季は21試合出場のみに終わった。大城が正捕手として確固たる地位を築き、攻守で能力が高い
岸田行倫が第2捕手に。鉄砲肩に定評がある
山瀬慎之助の成長で、小林の立場は厳しくなっていた。
今年のキャンプは二軍スタート。だが、3月11日から一軍合流すると、攻守で存在感を発揮する。途中出場した22日の
楽天戦(東京ドーム)では、9回二死一塁で一塁走者の
辰己涼介がスタートを切ったが、好送球で刺した。24日の同戦では先発マスクをかぶり、バッテリーを組んだ
高橋礼が5回1失点。巧みなリードで引っ張った。課題の打撃もオープン戦打率.273と健闘している。
他球団の首脳陣は、「2番手捕手は独特のポジションです。投手の持ち味を引き出すとともに、正捕手の配球と違った色を出していかなければいけない。ただ、能力が高ければいいという問題ではありません。自分のことで目いっぱいの若手はなかなか務まるポジションではない。小林は
菅野智之、
山口俊らの信頼が厚かったように、捕手としての能力は間違いなく高い。リードした展開で逃げ切りたい場面や、乱打戦で試合を落ち着かせたいときなどいろいろな局面で途中から出せる。
阿部慎之助監督が就任し、捕手の起用法がどう変わっていくか気になります」と警戒する。
捕手の起用法を見直す可能性
阿部監督が正捕手だった現役時代は
古田敦也(
ヤクルト)、
谷繁元信(
中日)、
矢野燿大(
阪神)ら球界を代表する正捕手が試合に出続けていたが、近年は複数の捕手を併用する起用法がトレンドになっている。昨年38年ぶりの日本一に輝いた阪神は
梅野隆太郎、
坂本誠志郎のコンビ、リーグ3連覇を飾った
オリックスは
森友哉、
若月健矢のコンビで投手との相性を考えながら起用されていた。
昨年の
巨人は大城がチーム最多の125試合で先発マスクをかぶった。2番目に多いのが岸田で15試合出場。大城は打率.281、16本塁打、55打点と自己最多の数字をマークし、リーグ2位の盗塁阻止率.373で自身2度目のベストナインを受賞したが、チームは2年連続でBクラスに沈んだ。リーグ5位のチーム防御率3.39だったことを考えると、阿部監督が捕手の起用法を見直す可能性が十分に考えられる。
「固定観念を捨てるのだ」
もちろん、大城が正捕手であることは間違いない。小林は打撃がネックになる。ただ、球界屈指の名捕手として知られる
野村克也氏は、生前に違った見方を示していた。小林が正捕手だった18年。119試合出場で打率.219、2本塁打、26打点と打撃面でふるわなかったが、週刊ベースボールのコラムで以下のように語っている。
「そもそも小林誠司がダメだ、ダメだと言われるのも、私は小林自身というより周りがダメなのではないかと思っている。キャッチャーの指導ほど、難しいものはない。誰もが簡単に結果論で責めるから、小林もなかなか納得できないのではないか」
「巨人の小林にしても、『俺はやっぱりバッティングがダメだ』と思い込んでしまっているのではないか。キャッチャーである以上、レギュラーを目指したときのように、四番バッターを目指すべきだ。『将来、絶対四番を打ってやる』と高く目標を持ってほしい。『キャッチャーは打てないものだ』という固定観念を捨てるのだ。考えてもみてほしい。キャッチャーは日ごろ、バッター封じの仕事をしているではないか。それを逆の立場から、自分のバッティングに生かせばいい」
「そのあたり、古田敦也なんか、いい例だ。さすが古田、抜け目がない。キャッチャーの配球論をそのまま、バッティングに生かしたのだ。ストレートが何球続くか、変化球を空振りしたら、次の球をどうするか……キャッチャー側から見た考えを、そのままバッティングに反映させた。大したものだ。ああいうところを見ても、彼の頭の良さがよく分かる。小林も
甲斐拓也も、見習ったほうがいい」
小林は今季プロ11年目を迎える。「第2捕手」という新たな役割で、もう一花咲かせることができるか。
写真=BBM