着々と経験を重ねて
甲子園で初めて球審を務めた溝内氏。2022年夏から数えて、今回が4回目となる甲子園大会への派遣だった[写真=田中慎一郎]
第96回選抜高校野球大会▼第7日
【2回戦(3月26日)】
健大高崎(群馬)4-0明豊(大分)
天候不良で4時間33分遅れでプレーボールした第1試合。健大高崎高と明豊高の2回戦の球審を務めたのは、溝内健介氏(48歳)だった。2022年夏から甲子園に派遣。塁審、外審などで経験を積み、4回目となった今大会、初めてチーフアンパイアを任された。
開成高(東京)を経て、東大ではマネジャー兼投手として活動。父・建三さんは法政二高(神奈川)の責任教師として1984年春、88年夏の甲子園を引率し、監督も歴任した。溝内氏は幼少時から野球に囲まれた生活だった。
東大のマネジャーとして、東大OBの審判員である清水幹裕氏と接する機会が多かった。清水氏は弁護士をしながら、神宮の東京六大学、甲子園などで
ジャッジ。大学卒業後も野球に関わりたいと考えていた溝内氏は、審判員を目指すため、弁護士を志したのである。
2000年6月に東大法学部を卒業。06年10月に弁護士登録し、清水氏が代表の「清水法律事務所」に入所した。08年から東京六大学の審判員となった。清水氏の「後継者」として、伝統の早慶戦など大舞台でのキャリアを積み、社会人野球でも経験を重ねてきた。
甲子園で初の球審も、溝内氏は落ち着いていた。大舞台でも、やることは変わらない。目の前のプレーを冷静に対処するだけ。試合時間は1時間48分。高校生らしくキビキビと、スピーディーな展開へと持ち込むのも、アンパイア技術の一つ。ふだんと変わらず、1プレー、1プレーを丁ねいに判定していた。
テレビ観戦していた父・建三さんは「無難にこなしていたと思います。きちんと判定しており、親としてもうれしいです」と話した。
試合終了後、健大高崎高の校歌斉唱時、球審・溝内氏のホッとした表情が印象的だった。1試合を完遂した達成感。自己満足ではなく、ゲームを通じて協力してくれた3人の塁審に対して、感謝の気持ちでいっぱいだ。審判員にとっても、甲子園はあこがれの「夢舞台」である。アンパイアがいなければ、試合は成立しない。審判員と選手、お互いがリスペクトして、大会は進行していくのである。
文=岡本朋祐