「気持ちを見せられた」

報徳学園高・西川は1点ビハインドの9回表二死一塁から二盗を成功させた。決死のヘッドスライディングだった[写真=宮原和也]
第96回選抜高校野球大会▼第11日
【決勝(3月31日)】
健大高崎(群馬)3-2報徳学園(兵庫)
甲子園で、信じられない光景が広がっていた。
2対3。1点を追う9回表、報徳学園高の攻撃である。三塁アルプスはイニング冒頭から、同校のチャンステーマである『アゲアゲホイホイ』でボルテージは最高潮。このままでは終わらないという、ムードを作り上げていた。過去に数々の名勝負を演じてきた「逆転の報徳」。マンモススタンドの誰もが信じていた。
しかし、2人が凡退し、二死走者なし。背番号15の代打・貞岡拓磨(3年)は四球を選んだ。背番号13の西川成久(3年)はベンチで、事前に大角健二監督に呼ばれていた。
「出たら(代走で)行くぞ!!」
走者が出ただけで、場内は異様なムードになった。だが、あとがない状況に変わりはない。1ボールからの2球目、西川は走った。土壇場で二盗を成功させたのである。「アウトになったら俺のせい。走ってこい、と。めちゃくちゃ、緊張しました。気持ちを見せられた」(西川)。大角監督は試合後に明かした。
「グリーンライト(行けたら、行け)でした。3球目にはサインを出そうかな、と思っていたんですが、2球目に仕掛けた。自分の判断で、よく走ってくれました」
無我夢中。怒涛のヘッドスライディング。この試合、一番の盛り上がりとなった。「神走塁」である。観衆の誰もが、心を動かされたはず。50メートル走6秒フラット。
ソフトバンク・
周東佑京が理想の選手像であり、甲子園で強烈なインパクトを残した。常日頃から試合を想定した走塁練習の成果を出した。
どんな形でもいいから、得点圏に走者を送り、相手バッテリーにプレッシャーをかけたい。セオリーではないかもしれない。しかし、指揮官の執念と意図が、西川に伝わったのだ。
一打同点の状況に持ち込むも、次打者の一番・橋本友樹(2年)は変化球を空振り三振。報徳学園は1点差で惜敗した。西川は試合後「切り替えて、夏に全国制覇を目指す」と語った。最後まで攻め続けたからこそ、夏につながる。試合をひっくり返すことはできなかったが「逆転の報徳」の神髄を見た気がした。
文=岡本朋祐