チームの危機を救うピッチング
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今年は先発陣の中で昨年以上の存在感を発揮している才木
この右腕の存在がなければ、
阪神は首位争いを演じる現在の位置にいないだろう。リーグトップタイの4勝をマークしている
才木浩人だ。
負けたら連敗に歯止めが利かなくなる危機で、何度もチームを救っている。敵地・東京ドームの開幕カードで
巨人に2連敗を喫し、第3戦目に先発すると6回4安打無失点の好投で今季初勝利。5月5日の巨人戦(東京ドーム)も負ければ同一カード3連敗の危機で5回2失点と粘り、チームに白星をつけた。
5月12日の
DeNA戦(横浜)では128球の熱投で最後まで投げ切り、今季2度目の完封勝利。勝負の山場は7回だった。無死一、二塁のピンチで前夜に決勝弾を放った吾番の
筒香嘉智を打席に迎えたが、直球で押し込んで二ゴロ併殺。
桑原将志も二ゴロに仕留めて無失点で切り抜け、グラブを何度も叩いて叫んだ。打撃でも3回二死から四球で出塁し、
中野拓夢の右翼線適時二塁打で二塁から決勝の本塁生還。前夜に7点のリードをひっくり返される逆転負けを喫し、才木でも負けていたら負の連鎖が続いていたかもしれない。大きな価値がある白星だった。1対0で逃げ切り、お立ち台では「もうちょっと点取ってほしいですね」と笑い、スタンドを盛り上げた。
向上心が強い右腕
向上心が強い右腕は、侍ジャパンに選出されてプレミア12、WBC出場を目標に掲げている。昨年は自己最多の8勝をマークしたが、球界を代表する右腕に進化するためにはさらに高水準が求められる。才木本人も自覚している。「まずは1年間、一軍でしっかり投げたいです。そのためには規定投球回数にも到達しないといけない。結果としてタイトルがあると思っているので、もちろん獲れるタイトルは全部獲りたいです」と語っていた。
才木の素顔が垣間見えたのが昨年3月に登板したWBC強化試合だ。侍ジャパンの
大谷翔平に、左膝をついて低めのフォークをすくわれてバックスクリーンにホームランを浴びた。阪神の球団公式YouTubeでは登板後に才木が選手ロッカーで「マジで悔しい」と何度も繰り返して表情をしかめたが、「メジャー・リーガーと対戦できる機会なんて全然ないから、そう思ったらマジで良い経験でした。このレベルで野球ができるように頑張りたい」と誓う様子が映し出されていた。
阪神を取材する記者は「あのフォークは決して甘い球ではない。ほかの選手だったら高い確率で空振りしているでしょう。打った大谷が一枚上手だった。ただ、才木は一発を食らったことを本気で悔しがっていた。大谷は別格と切り替えていない。ああいう負けず嫌いな選手は伸びますよ」と語っていた。
感じさせる成長の跡
189センチの長身から150キロを超える直球、落差の鋭いフォークで三振奪取能力が高い。今季はカーブも効果的に織り交ぜ、走者を出しても崩れない。調子が悪いなりにもきっちり試合を作るパフォーマンスが成長の跡を感じさせる。
高卒2年目の2018年に週刊ベースボールのインタビューで、将来目指す投手像を語っている。
「3年後などには10勝くらい挙げられる投手になっていたいと思っていますので、そこは本当にケガをしない程度で頑張って、アピールできるところはしっかりアピールしていきたいです」
「どちらかというと力で押して三振を奪うタイプの投手だと思っていますので。将来は奪三振王なども狙える投手になりたいな、と思っています」
日の当たる道を歩んできたわけではない一軍登板なしに終わった20年にトミー・ジョン手術を受け、育成契約を経験するなど試練を味わったが、22年に4勝を挙げて復活。7月3日の
中日戦(バンテリン)で5回無失点に抑え、1159日ぶりの白星を挙げた際はお立ち台で感極まって涙した。苦しい時間のほうが多かったかもしれないが、逆境からはい上がった道のりは決して遠回りではない。
まだ達成していない規定投球回数、2ケタ勝利は通過点に過ぎない。プロ8年目の今季は大輪の花を咲かせ、同学年の
村上頌樹と「ダブルエース」でリーグ連覇に導く。
写真=BBM